※これは2月9日に追加した、君の声編「結婚式」〜「■異動」の間の2月頃の話です
春香がケアマネとして4月から正式に働くことになっていた年の2月9日……
話の流れで、家庭用ゲーム機のカラオケソフトがあるという春香の家でカラオケパーティーをすることになった。
数日前のこと……
「え〜ハルちゃんちカラオケゲームがあるの? いいな〜今度また遊びに行きたいんだけど」
「いいよ〜明美ちゃん達が来てくれたのって1年位前だっけ? 懐かしいな」
「あ〜あの料理が微妙だったやつな」
「悪かったですね! 料理が下手で(怒)」
「ねえ、2月9日の平日だったら三人一緒で休みだから、その日にしない?」
「あ……その日はちょっと行きたい所があって……」
「どこ?」
「どこって言われると返答に困るって言うか……強いて言うなら思い出の場所巡り?」
「なにそれウケる〜旦那と行くの?」
「いや一人で……完全な自己満足で……」
「それなら違う日でも行けるんじゃない? ほらっ三人一緒の休みって中々ないし……新年会は悠希来れなくてハルちゃん上の空だったから、1ヶ月遅れの新年会ってことで……」
「え? 何それ?」
「ぜ、全然、上の空なんかじゃなかったよ! ちゃんと……」
「失恋の歌ばっか歌ってて、やたら感情こもってたよね〜」
「も〜〜〜違うし分かったからこれ以上変な事言わないで〜」
「やった〜今度の休みはハルちゃんちでカラオケ……送信っと」
ブブブブブッ
「メールの返信早っ……なんかハルちゃんの家行くって言ったら、うちの彼氏も行きたがってるんだけど一緒でもいい?」
「いいよ〜私も会ってみたいし……うちの旦那もその日、休み取れるか一応聞いてみるね」
2月9日当日……
ピンポーン
「おじゃましま〜す」
「どうぞ上がって〜」
結局旦那が休みになったそうで、なんとなく以前に来た時より緊張している僕とは対称的に、出会ってほぼ3分……
フレンドリーな明美の彼の浩介は、旦那と気が合ったようで早速お酒を酌み交わして意気投合していた。
「孝次くん歌上手いね〜」
「いいや〜それ程でも」
盛り上がる二人から大分離れた場所で、僕はずっと気になっていた事を春香に聞いてみる事にした。
「それはそうと今日、本当はどこに行こうとしてたんだよ」
「へ?」
「お、思い出の場所とか言ってただろ?」
「あ……あれは……」
「分かった……浮気か」
「違うよ〜」
「じゃあどこだよ」
「…………毎年ある場所とある場所にお礼参りに行ってるの」
「へ〜神社巡りか何かか?」
「違うよ……高校の時、ある人がある物をくれて頑張れって応援してくれた場所と……」
「ある人に貰った物のおかげで大切な事に気付いて……もう一度頑張ろうと思えた場所」
「何だそれ?……てか何で今日?」
「それは……二人に言いたかったのに言えなかった言葉を伝えたかった日だからかな? でももう卒業しなきゃね」
「卒業???」
(ボソッ)
「まさかその場所の前にある式場で結婚式を挙げる事になるとは思わなかったし……ホームドアもできたから同じような事をする人もいないだろうし」
「え? 何か言った?」
「……なんでもない……」
そう言うと彼女はカーテンを開けて空を見上げながら、温度差で曇った窓ガラスの一部に文字を書き始めた。
それは何かの暗号のようで……
書きながら落ちていく雫で読みにくくなっていたが、平仮名ばかりの不自然な文字はこう書かれていた。
おちこんだひも
めげずにいよう
であえたことが
とてもすてきな
うまれたキセキ
「何だコレ? ポエム?」
「アハハ、そう思うよね〜さあ問題です! 一体何を伝えたかったんでしょうか?」
「……は? い、いきなりワケわかんね〜よ」
「だ、だよね〜」
本当は分かっていた…
けど必死にごまかした。
彼女の心の奥にいる誰かに嫉妬のような感情が浮かんだから……
昔から春香と同じ推理漫画が好きで、暗号が得意だからすぐにピンと来た。
彼女が今日、本当は誰かに伝えたかったであろう言葉も……その意味も……
彼女は僕の顔を見ながら何かに気付いたようで……
だから、これ以上悟られないように慌てて目を反らした。
その後……
1時間程飲みながらカラオケをして本当に楽しかったが、次の曲を入れようとしていた彼女の手がなぜか突然止まった。
「どした? 入れないならリモコン貸して?」
「は、はい…………」
そう言って渡そうとする彼女の手には僅かな震えがあり、青い顔をしているのに気付いてしまった。
(こいつもしかして……アレになったとか?)
昔からそういうのに気付くタイプなので、すぐにピンと来た。
(さっきから小刻みに震えてるけど寒いのか?)
(あ……旦那の方を見たぞ……でも一番遠い所で明美の彼氏と泥酔してるから……あ……諦めた……分かりやすいな)
(しかめっ面してお腹押さえてるけどトイレに行こうとしないって事は違うのか?……でも逆に立てない位痛いとか? 寒いと余計痛いらしいし……)
試しに「なんかこの部屋暑くね?」とパーカーを脱いで春香のそばに置いてみた。
すかさず「ごめん、これ借りていい? 私、寒くて……」とパーカーを掴んで震える彼女……
(やっぱりな……)
「そろそろ帰ろうぜ〜飽きた」
「え? 悠希まだほとんど歌ってないじゃん! まだ飲み足りないし……」
「また今度でいいじゃん、帰ろうぜ〜」
「え……帰っちゃうの? じゃあパーカー返す」
「別に……また明日でいいんじゃね?」
次の日の仕事終わり……
「昨日はパーカー貸してくれて本当にありがとね〜そういえぱポケットにカギが入ってたの夜遅くなってから気付いたんだけど大丈夫だった?」
「別に……開けてもらったから大丈夫だけど、そっちは大丈夫なのかよ?」
「え? あっ大丈夫大丈夫〜えっと、冷たいモノ飲み過ぎちゃって……それで……」
「どうせアレだろ?」
「へ? な、何を言ってるのかなぁ?」
とぼけて宙を見だした彼女が今の発言のキモさに気付く前に話題を変えた。
「それにしても旦那、全然気付いてなかったよな〜お前に関心なさ過ぎっていうか魅力ないんじゃね?」
「うるさいなっ言われなくても分かってるよっ」
「そんな調子じゃ当分子供もできそうにないな〜まあ、4月からは正式にケアマネで当分無理だけどな」
「そ、そうだよね……でもいつか、もしも子供が生まれたら、優しいって漢字が入る名前にしたいんだ〜悠希くんは?」
「な、なんで俺に聞くんだよ……だ、旦那に聞けよ」
動揺し過ぎて思わず赤面してしまった。
「え? 小学校の頃、子供の名前何にするトークとかで考えたことない?」
「へ? あ、あ、そういえばあるわ〜」
「何て名前?」
「……純粋の純……昔、悠希じゃなかったら母さんがつけたがってた名前だから……」
「お母さん大好きなんだね」
「違う……好きじゃない」
「素直になりなよ〜」
彼女がいたずらっぽく笑った瞬間、何かがフラッシュバックした。
「ち、違う……」
「ほんと素直じゃないよね〜小学校とかでも好きな子いじめてたタイプでしょ」
「うるさいっ」
「ね〜悠希くんの初恋ってどんな子だった? 私はね〜小学校の時に鳥小屋から助けてくれた男の子で……」
「そんなの興味ね〜し、どうでもいいし早く帰れ!」
「教えてくれたら帰るよ〜小学校何年生の時?」
「………………もっと前」
「幼稚園の時? もしかして担任の先生とか?」
「……違う……もっと前」
「って3〜4歳? よく記憶あったね」
「三つ子の魂百までって言うだろうが」
「で、どんな子? 教えてくれるまで帰らないよ〜」
「帰れ」
「帰らないっ」
「帰れよ!」
「帰りません!(泣)」
「ウザいなほんと…………お前みたいなお節介なやつだよ」
「へ〜お節介……お前みたいな?」
「やべ」
「ひどい……私のことお節介だと思ってたんだ」
「え?」
「もういいっ! しばらく悠希くんのこと日記に書いてあげないからっ!」
「え?……逆に普段、何て書いてんだよ」
日記の内容が気になったが、その日、新たな秘密が一つできた。
初恋のお姉さんに似てるかも……
なんて一瞬でも思ったことは、
絶対あいつに秘密……だな。
春香がケアマネとして4月から正式に働くことになっていた年の2月9日……
話の流れで、家庭用ゲーム機のカラオケソフトがあるという春香の家でカラオケパーティーをすることになった。
数日前のこと……
「え〜ハルちゃんちカラオケゲームがあるの? いいな〜今度また遊びに行きたいんだけど」
「いいよ〜明美ちゃん達が来てくれたのって1年位前だっけ? 懐かしいな」
「あ〜あの料理が微妙だったやつな」
「悪かったですね! 料理が下手で(怒)」
「ねえ、2月9日の平日だったら三人一緒で休みだから、その日にしない?」
「あ……その日はちょっと行きたい所があって……」
「どこ?」
「どこって言われると返答に困るって言うか……強いて言うなら思い出の場所巡り?」
「なにそれウケる〜旦那と行くの?」
「いや一人で……完全な自己満足で……」
「それなら違う日でも行けるんじゃない? ほらっ三人一緒の休みって中々ないし……新年会は悠希来れなくてハルちゃん上の空だったから、1ヶ月遅れの新年会ってことで……」
「え? 何それ?」
「ぜ、全然、上の空なんかじゃなかったよ! ちゃんと……」
「失恋の歌ばっか歌ってて、やたら感情こもってたよね〜」
「も〜〜〜違うし分かったからこれ以上変な事言わないで〜」
「やった〜今度の休みはハルちゃんちでカラオケ……送信っと」
ブブブブブッ
「メールの返信早っ……なんかハルちゃんの家行くって言ったら、うちの彼氏も行きたがってるんだけど一緒でもいい?」
「いいよ〜私も会ってみたいし……うちの旦那もその日、休み取れるか一応聞いてみるね」
2月9日当日……
ピンポーン
「おじゃましま〜す」
「どうぞ上がって〜」
結局旦那が休みになったそうで、なんとなく以前に来た時より緊張している僕とは対称的に、出会ってほぼ3分……
フレンドリーな明美の彼の浩介は、旦那と気が合ったようで早速お酒を酌み交わして意気投合していた。
「孝次くん歌上手いね〜」
「いいや〜それ程でも」
盛り上がる二人から大分離れた場所で、僕はずっと気になっていた事を春香に聞いてみる事にした。
「それはそうと今日、本当はどこに行こうとしてたんだよ」
「へ?」
「お、思い出の場所とか言ってただろ?」
「あ……あれは……」
「分かった……浮気か」
「違うよ〜」
「じゃあどこだよ」
「…………毎年ある場所とある場所にお礼参りに行ってるの」
「へ〜神社巡りか何かか?」
「違うよ……高校の時、ある人がある物をくれて頑張れって応援してくれた場所と……」
「ある人に貰った物のおかげで大切な事に気付いて……もう一度頑張ろうと思えた場所」
「何だそれ?……てか何で今日?」
「それは……二人に言いたかったのに言えなかった言葉を伝えたかった日だからかな? でももう卒業しなきゃね」
「卒業???」
(ボソッ)
「まさかその場所の前にある式場で結婚式を挙げる事になるとは思わなかったし……ホームドアもできたから同じような事をする人もいないだろうし」
「え? 何か言った?」
「……なんでもない……」
そう言うと彼女はカーテンを開けて空を見上げながら、温度差で曇った窓ガラスの一部に文字を書き始めた。
それは何かの暗号のようで……
書きながら落ちていく雫で読みにくくなっていたが、平仮名ばかりの不自然な文字はこう書かれていた。
おちこんだひも
めげずにいよう
であえたことが
とてもすてきな
うまれたキセキ
「何だコレ? ポエム?」
「アハハ、そう思うよね〜さあ問題です! 一体何を伝えたかったんでしょうか?」
「……は? い、いきなりワケわかんね〜よ」
「だ、だよね〜」
本当は分かっていた…
けど必死にごまかした。
彼女の心の奥にいる誰かに嫉妬のような感情が浮かんだから……
昔から春香と同じ推理漫画が好きで、暗号が得意だからすぐにピンと来た。
彼女が今日、本当は誰かに伝えたかったであろう言葉も……その意味も……
彼女は僕の顔を見ながら何かに気付いたようで……
だから、これ以上悟られないように慌てて目を反らした。
その後……
1時間程飲みながらカラオケをして本当に楽しかったが、次の曲を入れようとしていた彼女の手がなぜか突然止まった。
「どした? 入れないならリモコン貸して?」
「は、はい…………」
そう言って渡そうとする彼女の手には僅かな震えがあり、青い顔をしているのに気付いてしまった。
(こいつもしかして……アレになったとか?)
昔からそういうのに気付くタイプなので、すぐにピンと来た。
(さっきから小刻みに震えてるけど寒いのか?)
(あ……旦那の方を見たぞ……でも一番遠い所で明美の彼氏と泥酔してるから……あ……諦めた……分かりやすいな)
(しかめっ面してお腹押さえてるけどトイレに行こうとしないって事は違うのか?……でも逆に立てない位痛いとか? 寒いと余計痛いらしいし……)
試しに「なんかこの部屋暑くね?」とパーカーを脱いで春香のそばに置いてみた。
すかさず「ごめん、これ借りていい? 私、寒くて……」とパーカーを掴んで震える彼女……
(やっぱりな……)
「そろそろ帰ろうぜ〜飽きた」
「え? 悠希まだほとんど歌ってないじゃん! まだ飲み足りないし……」
「また今度でいいじゃん、帰ろうぜ〜」
「え……帰っちゃうの? じゃあパーカー返す」
「別に……また明日でいいんじゃね?」
次の日の仕事終わり……
「昨日はパーカー貸してくれて本当にありがとね〜そういえぱポケットにカギが入ってたの夜遅くなってから気付いたんだけど大丈夫だった?」
「別に……開けてもらったから大丈夫だけど、そっちは大丈夫なのかよ?」
「え? あっ大丈夫大丈夫〜えっと、冷たいモノ飲み過ぎちゃって……それで……」
「どうせアレだろ?」
「へ? な、何を言ってるのかなぁ?」
とぼけて宙を見だした彼女が今の発言のキモさに気付く前に話題を変えた。
「それにしても旦那、全然気付いてなかったよな〜お前に関心なさ過ぎっていうか魅力ないんじゃね?」
「うるさいなっ言われなくても分かってるよっ」
「そんな調子じゃ当分子供もできそうにないな〜まあ、4月からは正式にケアマネで当分無理だけどな」
「そ、そうだよね……でもいつか、もしも子供が生まれたら、優しいって漢字が入る名前にしたいんだ〜悠希くんは?」
「な、なんで俺に聞くんだよ……だ、旦那に聞けよ」
動揺し過ぎて思わず赤面してしまった。
「え? 小学校の頃、子供の名前何にするトークとかで考えたことない?」
「へ? あ、あ、そういえばあるわ〜」
「何て名前?」
「……純粋の純……昔、悠希じゃなかったら母さんがつけたがってた名前だから……」
「お母さん大好きなんだね」
「違う……好きじゃない」
「素直になりなよ〜」
彼女がいたずらっぽく笑った瞬間、何かがフラッシュバックした。
「ち、違う……」
「ほんと素直じゃないよね〜小学校とかでも好きな子いじめてたタイプでしょ」
「うるさいっ」
「ね〜悠希くんの初恋ってどんな子だった? 私はね〜小学校の時に鳥小屋から助けてくれた男の子で……」
「そんなの興味ね〜し、どうでもいいし早く帰れ!」
「教えてくれたら帰るよ〜小学校何年生の時?」
「………………もっと前」
「幼稚園の時? もしかして担任の先生とか?」
「……違う……もっと前」
「って3〜4歳? よく記憶あったね」
「三つ子の魂百までって言うだろうが」
「で、どんな子? 教えてくれるまで帰らないよ〜」
「帰れ」
「帰らないっ」
「帰れよ!」
「帰りません!(泣)」
「ウザいなほんと…………お前みたいなお節介なやつだよ」
「へ〜お節介……お前みたいな?」
「やべ」
「ひどい……私のことお節介だと思ってたんだ」
「え?」
「もういいっ! しばらく悠希くんのこと日記に書いてあげないからっ!」
「え?……逆に普段、何て書いてんだよ」
日記の内容が気になったが、その日、新たな秘密が一つできた。
初恋のお姉さんに似てるかも……
なんて一瞬でも思ったことは、
絶対あいつに秘密……だな。