※これは読者の方から二人の話がもっと見たいというリクエストを受けて11月1日に追加した番外編です
(君の声編「■名前」の頃の追加話)
所長に悠希くんの子供の頃の写真を見せてもらった日、私はとても懐かしい夢を見た。
~~~~~~~~~~
幼稚園の年長の冬……4月に小学校入学と3月に引っ越しを控えた年、私は都内から少し離れた沿線近くの団地に住んでいた。
年明けの1月7日、私の6歳の誕生日……
どこに行きたいか聞かれて、大好きだった駅前デパートのゲームセンターに家族三人で行って楽しく遊んだ帰り頃……
母親は誕生日会の買い物をしにデパ地下に行ったので、父親と二人で遊んでいたら「お腹の調子が悪いからトイレ……」と言われ、ゲームセンターで一人になってしまった。
残ったメダルを見つめながら(一人で遊んでもつまらないな)と思っていた時……
UFOキャッチャーの前で泣いている男の子に出会った。
「……ック……ック」
「どうしたの? なんで泣いてるの?」
「……泣いてない」
「……泣いてるじゃん」
「……違う……これは…………あせだ……ック、くそっ目に入った」
(なんかわざとらしい……)
「パパとママは?」
「いない……」
「迷子になっちゃったの?」
「違う、ママが……ついて来れなかったんだ……くそっ足が速いからな、俺は」
(なんかめんどくさい子だな)
どうやらママと買い物に来た途中、大好きなゲームセンターの音が聞こえて一人で夢中で走って来たら、迷子になってしまったらしかった。
「君、名前は?」
「…………き」
「なんて?」
「やっぱ教えない」
「なんだそりゃ」
「じゃあママの名前は?」
「あかり」
「そっちは答えるんだ……」
「かわいい名前だろ」
「ママ大好きなんだね」
「違う……好きじゃない」
「素直になりなよ〜じゃあ名字は?」
「………………」モジモジ
「って言っても分からないか……じゃあ何歳かな?」
下を向いて手を見ながらモジモジしていると思ったら、無愛想にソッポを向きながら3本指を上げた右手を見せてくれた。
「そっか〜じゃあお姉ちゃんが一緒に探してあげる。大丈夫だよ? こういう時はゲームセンターのお兄さんに言えばいいんだよ」
「別にいい……」
「え?……だって一人じゃ」
「いいよ! なんとかするって! お前だって迷子だろ?」
「違うよ! パパとママは丁度ご用があっていないだけで……私、今日誕生日で6歳になったんだから」
「6歳……見えない……チビだし」
「失礼な! 七夕に『背が大きくなりますように』って書いたら伸びたもん」
万年背の順が2番だった私は、クラスの男子にもチビと馬鹿にされていた。
「七夕? 俺の……誕生日……」
「そうなの? わ〜うちのママと一緒〜」
私は嬉しくてはしゃいでしまった。
「っていうか君のママきっとすごく心配してるよ? 付いて来て!」
私は一人っ子だったので……ここぞとばかりにお姉さんぶった。
ゲームセンターのお兄さんにその子の事を伝えると、すぐに迷子センターに電話してくれたようで、「水色のトレーナーを着た七夕生まれの3歳の男の子が……」という館内放送が流れた。
(結局名前は言わないし、最初兄弟で迷子だと間違われて焦ったが……)
「ママが来るまでお姉ちゃんがそばにいてあげるよ」
私達は待っている間、余っていたメダルで一緒にゲームをして遊んだ。
UFOキャッチャーもやりたかったがお金がないので見るだけにした。
しばらくしてママが迎えに来ると……
その子は飛びついて大泣きし、私の前にいた時と同じ子とは信じられない位素直にごめんなさいをしていた。
「ママ見つかってよかったね〜」
「あら、もしかして一緒にいてくれたの? どうもありがとう……ほらハルちゃんもお礼言って」
「…………」
「ごめんなさい、この子恥ずかしがり屋で……」
「あ、ありが……ック、お、おめ…………ック」
「(ありがとうとお前……かな?)いいよ〜私も楽しかったし」
「やる……ガチャガチャ……」
「あ、ありが……」
ポーイと明後日の方向に投げられて宙を舞う&取りそこなって転がる丸い物体を追いかけて無事拾い上げたが……
「も〜投げないでよ……あれ? いない?」
急いで走って行ってしまったらしく、目線を上げた時にはもう、その子はいなかった。
「なんだろ?」パカッ
「わ〜カワイイくまさん」
それから私は、そのクマのキャラクターが大好きになった。
時間は飛んで、大学の就活も佳境に入っていた頃……
パソコンの求人情報を見ていた私は、ある名前のデイサービスに目を留めた。
(あ、昔好きだったデパートと同じ名前だ〜なんか誕生日の日に迷子の子と遊んだんだっけ?)
(あんな弟欲しかったな……なんかこの会社に入ることでその子にまた会える気がする)
(な〜んて入学式の時にもこんなのあったけど当たるわけないよねっ取り敢えず応募してみよ〜)
~~~~~~~~~~
そんな久し振りに懐かしい子供の頃と大学時代の夢を見た朝……
私は、前日に所長から悠希くんの子供の頃の写真を見せてもらいながら聞いた、初めての迷子話を思い出していた。
その頃に住んでいたらしい場所が偶然私が昔住んでいた場所と同じだと知った時、「私も……」と言いかけてなぜか切なくなって言うのをやめた理由に気付いてしまった。
いつもより早く支度をし、玄関を出てカギを閉め、マンションの踊り場から事務所がある方角の空を見上げる。
「まさか、本当に会えることになるとは……思わなかった……よね?」
私は、カギについているクマを握り締めながら独り言を言った。
(君の声編「■名前」の頃の追加話)
所長に悠希くんの子供の頃の写真を見せてもらった日、私はとても懐かしい夢を見た。
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幼稚園の年長の冬……4月に小学校入学と3月に引っ越しを控えた年、私は都内から少し離れた沿線近くの団地に住んでいた。
年明けの1月7日、私の6歳の誕生日……
どこに行きたいか聞かれて、大好きだった駅前デパートのゲームセンターに家族三人で行って楽しく遊んだ帰り頃……
母親は誕生日会の買い物をしにデパ地下に行ったので、父親と二人で遊んでいたら「お腹の調子が悪いからトイレ……」と言われ、ゲームセンターで一人になってしまった。
残ったメダルを見つめながら(一人で遊んでもつまらないな)と思っていた時……
UFOキャッチャーの前で泣いている男の子に出会った。
「……ック……ック」
「どうしたの? なんで泣いてるの?」
「……泣いてない」
「……泣いてるじゃん」
「……違う……これは…………あせだ……ック、くそっ目に入った」
(なんかわざとらしい……)
「パパとママは?」
「いない……」
「迷子になっちゃったの?」
「違う、ママが……ついて来れなかったんだ……くそっ足が速いからな、俺は」
(なんかめんどくさい子だな)
どうやらママと買い物に来た途中、大好きなゲームセンターの音が聞こえて一人で夢中で走って来たら、迷子になってしまったらしかった。
「君、名前は?」
「…………き」
「なんて?」
「やっぱ教えない」
「なんだそりゃ」
「じゃあママの名前は?」
「あかり」
「そっちは答えるんだ……」
「かわいい名前だろ」
「ママ大好きなんだね」
「違う……好きじゃない」
「素直になりなよ〜じゃあ名字は?」
「………………」モジモジ
「って言っても分からないか……じゃあ何歳かな?」
下を向いて手を見ながらモジモジしていると思ったら、無愛想にソッポを向きながら3本指を上げた右手を見せてくれた。
「そっか〜じゃあお姉ちゃんが一緒に探してあげる。大丈夫だよ? こういう時はゲームセンターのお兄さんに言えばいいんだよ」
「別にいい……」
「え?……だって一人じゃ」
「いいよ! なんとかするって! お前だって迷子だろ?」
「違うよ! パパとママは丁度ご用があっていないだけで……私、今日誕生日で6歳になったんだから」
「6歳……見えない……チビだし」
「失礼な! 七夕に『背が大きくなりますように』って書いたら伸びたもん」
万年背の順が2番だった私は、クラスの男子にもチビと馬鹿にされていた。
「七夕? 俺の……誕生日……」
「そうなの? わ〜うちのママと一緒〜」
私は嬉しくてはしゃいでしまった。
「っていうか君のママきっとすごく心配してるよ? 付いて来て!」
私は一人っ子だったので……ここぞとばかりにお姉さんぶった。
ゲームセンターのお兄さんにその子の事を伝えると、すぐに迷子センターに電話してくれたようで、「水色のトレーナーを着た七夕生まれの3歳の男の子が……」という館内放送が流れた。
(結局名前は言わないし、最初兄弟で迷子だと間違われて焦ったが……)
「ママが来るまでお姉ちゃんがそばにいてあげるよ」
私達は待っている間、余っていたメダルで一緒にゲームをして遊んだ。
UFOキャッチャーもやりたかったがお金がないので見るだけにした。
しばらくしてママが迎えに来ると……
その子は飛びついて大泣きし、私の前にいた時と同じ子とは信じられない位素直にごめんなさいをしていた。
「ママ見つかってよかったね〜」
「あら、もしかして一緒にいてくれたの? どうもありがとう……ほらハルちゃんもお礼言って」
「…………」
「ごめんなさい、この子恥ずかしがり屋で……」
「あ、ありが……ック、お、おめ…………ック」
「(ありがとうとお前……かな?)いいよ〜私も楽しかったし」
「やる……ガチャガチャ……」
「あ、ありが……」
ポーイと明後日の方向に投げられて宙を舞う&取りそこなって転がる丸い物体を追いかけて無事拾い上げたが……
「も〜投げないでよ……あれ? いない?」
急いで走って行ってしまったらしく、目線を上げた時にはもう、その子はいなかった。
「なんだろ?」パカッ
「わ〜カワイイくまさん」
それから私は、そのクマのキャラクターが大好きになった。
時間は飛んで、大学の就活も佳境に入っていた頃……
パソコンの求人情報を見ていた私は、ある名前のデイサービスに目を留めた。
(あ、昔好きだったデパートと同じ名前だ〜なんか誕生日の日に迷子の子と遊んだんだっけ?)
(あんな弟欲しかったな……なんかこの会社に入ることでその子にまた会える気がする)
(な〜んて入学式の時にもこんなのあったけど当たるわけないよねっ取り敢えず応募してみよ〜)
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そんな久し振りに懐かしい子供の頃と大学時代の夢を見た朝……
私は、前日に所長から悠希くんの子供の頃の写真を見せてもらいながら聞いた、初めての迷子話を思い出していた。
その頃に住んでいたらしい場所が偶然私が昔住んでいた場所と同じだと知った時、「私も……」と言いかけてなぜか切なくなって言うのをやめた理由に気付いてしまった。
いつもより早く支度をし、玄関を出てカギを閉め、マンションの踊り場から事務所がある方角の空を見上げる。
「まさか、本当に会えることになるとは……思わなかった……よね?」
私は、カギについているクマを握り締めながら独り言を言った。