忙しい毎日に追われていた秋のある日。
携帯がワンコールだけ鳴って切れた。
(何だろ……)
おもむろに画面を見ると、そこにあったのは思いもしない名前だった。
「悠希くん?……何で?」
驚いた私は思わず洗い物をしていた水溜まりの中に携帯を落としてしまった。
急いで修理に向かったが、黒くなったままの画面が戻ることはなく、そのまま機種変更をすることになった。
(携帯の写真……カードに保存しておけばよかったな……)
数少ない彼との思い出の写真やメールも無くなってしまった私は、さっき見た名前も気のせいだったような気がしていた。
(彼が私に電話するはずがない。 一瞬だったし見間違いかも……)
しっかりとした証拠が残っていたら話は別だが、目が悪くてそそっかしい私のこと……見間違いもしくは幻覚かもしれない……
もしかして本当に電話をかけてくれていたとしても、ただの押し間違いかもしれない……
退職して随分経った私が、もし急に「電話した? なあに?」と電話したら、益々頭のおかしなやつだと思われるだろう。
私は気のせいだと思うことにした。
それから何日か経ったある日。
友人と出かける先について調べていた私は、秋祭りの花火大会の記事を見つけた。
(秋の花火?……どこかで……)
秋祭りの場所とその日付に引っ掛かりを感じ、照らし合わせてみると……
謎の着信があった日は、花火大会の日だった。
いつだったか……彼から土曜の夜に電話が来た時のことを思い出した。
(……もしかして約束を守ろうとしてくれた?)
そんな私のところに思わぬ依頼が来た。
以前作った曲を投稿したサイトから、新しいゲームに私が作った曲ともう一つ新しい曲を使用したいとのメールだった。
私はせめても……と、想いを曲にすることにした。
~~~~~~~~~~
『君の声』
1、
鳴らない電話を待って 何年たったのだろう
今なら気付けること 沢山あるのに
君がつぶやいた あの言葉の意味を
不器用すぎる素直さに
会いたいと思えば 思う程なぜだろう
すれ違ってく月のように
だからせめて もうこれ以上
遠くならないように 願わないって決めたの
今はただ夢の中で
君の隣に そっといたいだけ
2、
君との約束は 叶うことはないけれど
偶然のメロディは 懐かしい匂いがして
ずっと不思議だった 夢にでてくること
すべて君に繋がってたのに
知らないふりをして 見えないラブレター
今頃気付くなんて
すれ違う運命でも 「まだ間に合うよ」って
言われた気がした
だけど今は ただ幸せを 祈ることしか
私にはできなくて
あれから気付いたらテレビの中
あなたの面影探してる
代わりなんて どこにもいるはずないのに
ただ同じ空を見るために
変わらなきゃって分かってるはず
最初からなかったことにするのは
どうしても出来なくて
だからせめて もうこれ以上
遠くならないように 願わないって決めたの
今はただ 幸せを祈ることしかできなくて
思い出して 笑ってたこと
叶うのならば もう一度
君の声が聞きたい
~~~~~~~~~~
曲が完成した後に私は呟いた……
「……さよなら……」