車の中に戻る。
ノートパソコンを作業台みたいにして印刷した紙をホッチキスでとめて製本する。いわく、本来なら製本テープというものを使うらしいが今回は簡易的にホッチキスで。

2冊あり、私の分と北条君の分。

「はい」

『結婚契約書』というタイトル。

「今からひとつずつ読みあげるから、しっかり聞いて確認して」
「は、はい……!」
「金澤さんが証人だから」

乙とか甲とか頭がややこしくなるが、北条君が名前に置き換えて分かりやすく説明してくれる。

要するに、さっき黒板に書いた内容がきちんとしたビジネスの文章になっている。

「……以上。質問や不明点、修正したいことは?」
「はい。特に問題な……」

車の横をサッカー部っぽい学生の集団が賑やかに通り過ぎて行った。
大好きな人の顔を思い出してズキンと胸が痛む。

「……あの……ひとつだけ確認したいのですが」
「なに?」
「こ……恋……はしても、いいのでしょうか……」

間が発生。

「誰に? 俺に?」
「違いますっ……! 北条さんではなく……!」

また、間。
やばい、北条君に恋をするとか変な風に思われてる。
そうじゃない。そんなことはまったくない。生涯ない。