だから凪岐くんがまだ来ていないことに驚いているわけじゃなくて。
ただ、あの時トイレで聞こえた会話が───
『っ……さ、さっき誰か入ってこなかった?』
『気のせいだろ……集中して』
『やだ、なぎ……』
”なぎ”って、まさか。
…………………いやぁー、ないない!
気のせいだ!!!
私バカだし、きっと勘違いに決まってる。
”なぎ”って名前の人、きっと他にもいるし?
っていうかそもそも、本当に”なぎ”って言ったのかわかんないし?
今ここに凪岐くんがいないのなんて、偶然だよ、偶然!
「おい菅原……なにをヘラヘラしとんじゃ!もういい、座れ。これ以上お前のために授業止めてられん!!」
私の思考が他のところにあることを察したのか、先生は鼻息荒く吐き捨てた。
「……はい。ごめんなさい」