トイレに駆け込んだときは本当に尿意が限界で。
隣に誰かが入っていたことにすら、気付きもしなかった。
それほどいっぱいいいっぱいだったんだ。
……それにしても、なんだかまだ心臓がうるさい。
あんなに熱っぽい男女の声、初めて聞いた。
高校2年生の私、 菅原桃子には少し刺激の強すぎる出来事だった。
進級してまだ1ヶ月。
まさか、こんな場面に遭遇するなんて。
「……って、やば!」
キーンコーン……
鳴り響いたのは、1限目が始まるチャイム。
それは私にとって、遅刻どころか1限目にすら間に合わなかったことを告げる、絶望の音だ。
新しいクラスにも慣れはじめた、今日この頃。
気が抜けてしまったのか、すっかり私は遅刻常習犯として認知されている。
そして今も。
あんな出来事があったとはいえ、うっかりしていた。
砂煙を巻き上げ、猛ダッシュで教室へ向かう。