「……せんせー、先出て」



いや、私が出るのを待ってから出た方がいいんじゃ……?



だけど2人には、そんなことを考える余裕もなかったのかもしれない。

隣の個室から鍵が開く音がすると、続けてたたたっと走り去る足音が聞こえた。



……まぁ、私も本当は入っちゃいけないところに入ってるわけだし。

今のは聞かなかったことにしよう、うん。

私は何も、聞いてない。何も……。



そう言い聞かせて、私もトイレを後にした。

まだ閉まっている隣の個室には男の方が残されてるのかな、なんて思いながら。



なんか……甘っ。



個室の外には消臭剤の匂いに上書きをするように、バニラの香りが少しだけ残っていた。