「そんなに、嫌がることないじゃない。優しい旦那さんだよ」

よく、そんな風に言われる。

それは、単に表面的な部分しかみえてないだけ。

メガネかけて、物静かで、一見インテリ風。

物静かは、度を過ぎた寡黙。

家の中ではほぼ無言。

何を聞いても、「ああ、うん」。

それじゃぁ、わかんないわけ。

だってこっちは、意見を尋ねてるんだからさ。「ああ、うん」じゃ答えになってないっての!

そして、その静けさの要因は、いつも、開いている分厚い本。

本を読む=インテリ?

いやいや、それも度を超えてる。

忘れもしない。

あれは、結婚三年目の夏。

当時も今の彼を彷彿とはさせていたけれど、私もそこまで不満に思ってはなかった時代。

人気の舞台のチケットをなんとか手に入れた私は、半ば無理矢理旦那をつれていった。

幕が開く10分前。

一番緊張が高まり、まだかまだかと気持ちが急きつつも、幕が開いたら確実に終演に近づく故のまだ開いてほしくないという葛藤の時間。

両手を組んで、張り裂けそうな胸をどうにか沈めながら、ふと横にいる旦那に視線
向けた。

分厚い専門書を開き、必死に読んでいる。

ここで読む本か??!

どこで何を読もうと勝手だろうと言われるに決まってるから、小さく息を吐いて再び舞台に顔を向けた。

いや。

でもさ。

今日はせっかくの舞台を観に来ているわけで。

その本、今日、しかも舞台が始まる直前に読まなくてもいいんじゃなくて?

その姿に私が一気に現実に引き戻されるなんて思いもしないんだろう。

結局、旦那は幕が上がる前、真っ暗になってるってのに、本を開いたままだった。

そして、そんな旦那の行動のせいで私はイライラした気持ちのまま、せっかくの舞台の幕開けに集中できなかったというわけだ。