けれどそんなもの通用しなかった。
キツネ面はすでに人間としての感情を失っている。
おそらくその下の顔である岩上は、人間であることを放棄してこの強行に及んでいるのだ。


今更少し威嚇した程度でどうなるものでもなかった。
思えば、自分たちがここに来るように動画は巧妙に仕掛けられていたのだ。


学校内で使われる音。
由佳の記憶に深く残っているロッカーの音。


極めつけは調理室のラクガキだった。
あれが画面に映ったのは偶然ではなかったのだと、今ならわかる。


カメラを移動させるときに黒い布をかぶせるような徹底ぶりだったのに、あそこだけやけに手抜きだった。
それはあのラクガキを自分たちに見せるためだったのだ。


配信が自分たちの通っている学校で行われているとわかれば、由佳たちは必ず配信者を見に来る。
そこまでわかった上で、動画撮影を始めたのだ。