キツネ面は調子に乗ってきたのか鼻歌を口ずさむようになった。
準備をしている間に何度もステップを踏む。
その軽快な動きが気持ち悪くて由佳は視線を落とした。


さっきから進も和美も動かない。
由佳は手首を切られているから、もう死んでしまったかもしれない。
なにも確認できないのがもどかしい。


キツネ面は和美の手首を和美の膝の上にそっと置いた。
まるでそれが神聖なものであるかのように丁寧に丁寧に扱っているのが、不気味だった。


絨毯に染み付いた血はもう簡単には落ちない。
白い絨毯はどす黒い血を吸い込んで重たく湿っている。
キツネ面はどうにか床を綺麗にしようと雑巾で拭き取っていたが、途中で諦めたように、雑巾を放り投げた。


その雑巾も血を吸って重たくなり、ベチャッと音を立てて落下した。
それからキツネ面は久貴と由佳に近づいてきた。


まるで品定めをするようにふたりを交互に見つめる。
久貴は何度もうめき声を上げて足を踏み鳴らし、キツネ面が近づいてこないように威嚇していた。