完全に徒歩で通勤していたのも由佳にとっては都合のいいことだった。
就職するに当たって近くのアパートを借りていたようで、電車やバスに乗ることもなかった。
由佳が後をつけていることにも気が付かずに、岩上は薄暗い夜道を1人で歩く。


その無褒美な背中に幾人の男たちが視線を送っているだろう。
時折、岩上とすれ違うサラリーマンがいる。
彼らが今岩上に襲いかかってくれれば、決定的場面を目撃することができるのにと、由佳はこころの底から楽しみにしていた。


岩上を尾行しはじめて最初の日は何事もなく終わった。
けれど二日目になると、明らかに怪しい車が岩上の歩調に合わせてゆっくりとついていくことに気がついた。
岩上が異変に気がついて振り向いたことでその車は走り去っていったけれど、狙っていたことには間違いなさそうだ。


もう少し。
あと少しだ。
翌日もその車は現れた。


岩上は逃げるように歩調が早くなる。
それに合わせて車も少しだけ速度を上げた。