その様子にリップが塗られた唇がクスッと笑う。
そして不意に右手を上げたかと思うと「聞こえませぇん!」とひときわ大きな声で発言した。

A組の教室内に由佳の声が響き、みんなが一斉に会話をやめる。
その視線はすべて岩上に向けられていた。
普通はこうでないといけない。

これが教師が教卓にたった時のクラスの様子で間違いはなかった。
だけどこの2年A組は決定的になにかが違った。

生徒たちの目は教師へ向けられていても、それは蔑みの目だったり、嘲笑の目だったりする。
静まり返ったこの教室内で、岩上がどうするのか。
それを観察していた。


「え、えっと。今日の授業ですが……」


途端に静かになった教室に戸惑い、言葉がうまく続かない。
岩上の背中には冷たい汗が流れていく。

幾人もの目が自分を見ている。
それは刃となって突き刺さってくる。