岩上の言葉に耳をかす生徒はほんの一握り。
大人しいタイプの3、4人しかいない。

彼らも席に座っているものの、別に岩上の話を真剣に聞いているわけではなかった。
膝の上でスマホをつついていたり、堂々と本を読んでいたりする。
それでも静かにしている彼らはこのクラスではいい方の生徒だった。


「それでね、昨日テレビでぇ」

「それマジ? 私知らなかったんだけど!」

「お前もう弁当食ってんのかよ」


岩上が教卓に立っていようがいまいがお構いなしに会話は続く。
それは休憩時間よりももっと大きな声で、もっと大きな笑い声で、まるで岩上に向けて刃物を向けるように行われる。

由佳は新作リップを塗り直して岩上へ視線を向けた。
岩上は諦めたように口の中でボソボソと今日の注意事項などを説明しはじめていて、生徒たちには視線も送らない。

この前ホームルーム中に目が会った生徒から『なに見てんだよ!』と怒鳴られたことが原因だろう。
岩上はうつむいたまま居心地も悪そうに話を続ける。