進の合成写真が生配信されて住所氏名を特定されたとき、由佳は必死に体を揺すって椅子の足を鳴らしていた。
高性能なマイクを使っているから、この音だって拾っているはずだ。
視聴者たちがその音に気がついて通報してくれるかもしれない。


そんな淡い期待を抱いていた。
だけど頬を切りつけられて青ざめた顔の進が振り向き、左右に首を振ったことで、それが無意味であることを悟った。
そもそも警察に通報してくれるような人たちが視聴していたとすれば、とっくに警察が到着している時間だ。
進の頬が切られて合成写真が流出しても、誰も通報しようとしてないということだった。


由佳は愕然として動きを止めた。
4人がここへ来る前に視聴者数が減ったとしても、まだ何十人も見ているはずだ。
それなのに、誰も通報しようとしない現実に寒気が走る。


みんな、まだまだこの動画を楽しんでいるんだ。
画面の中で誰かが傷つけられても、知らん顔で視聴を続けているんだ。