椅子に座ると、音楽室の様子がよく見える。
4人の前には配信器具が揃っていて、高価なマイクが使用されているのもわかった。


キツネ面は配信機材の前に移動していくと、なにやか準備を始めた。
横の机の上に黒くて大きなカバンを起き、その中を物色しはじめた。
あの中にはなにが入っているんだろう。


ここからでは到底知ることはできなくて、質問すらできない状態で、由佳の心臓は早鐘を打ち始める。
なにかわからないことが起きようとしていることだけは事実だ。
キツネ面はカバンの中を改め終えたのか、こちらへ振り向いた。


とっさに視線が合わないようにうつむく。
視線があえばなにかされるかもしれない。
そんな恐怖心が湧き上がってくる。


まるで、授業中に先生から指名されないためにジッとうつむいて教科書を見つめているときと同じ感覚だった。
どうか、自分ではありませんように。
由佳がそうしてうつむいている間にキツネ面は進の前まで移動してきたいた。


進がガムテープの下で何かを言っている。
きっと、『助けて』とか『やめろ』とかなのだろうけれど、キツネ面がその言葉を受取る素振りは見えなかった。