「岩上に味方だと思い込ませたのは、逃げるためだ」
校門を抜けて狭い路地へ逃げ込んだとき、ついに由佳は倒れ込んだ。
そこで進は落ち着いて話をしてくれていた。


「よかった。進も敵なのかと思った」
「そんなわけないだろ」
進は由佳の体を抱きしめる。


きつく抱きしめたかったけれど、あちこち骨折しているようなので軽く両手を回す程度だった。
だけど、ずっと好きだった相手が今自分の手の中にいると思うと、それだけで満足できた。


「これからどうするの?」
「視聴者たちは通報した。きっと、俺たちふたりが悪者になってるはずだ。捕まるわけにはいかない」


「逃げるの?」
「それしか方法はないと思う」
幸い進の頬の傷からの出血は治まっていた。


他に怪我もないので逃げ切ることはできそうだ。
でも、問題は由佳だった。


あちこち骨折しているせいで、歩くこともやっとだ。
由佳は狭い路地から空を仰ぎ見た。