反論したいのに、口をパクパクさせるだけでなにも言えない。
「その顔、とっても面白いですね」


キツネ面がクスクスと笑う。
それを見てももう何も感じなかった。
悔しいとか、悲しいとか、痛みすらもまた消えていた。


昂輝の彼女は岩上泉ではなかった。
その事実だけが由佳の体にのしかかってくる。


あの時、昂輝に彼女の名前を聞いた時、名字だけとは言わずにちゃんと聞いておくべきだった。
あれ以来昂輝は彼女について色々話をしてくれたから、もっと詳細を聞いておくべきだった。
そんな後悔ばかりが浮かんでは消えていく。