「妹の名前は水澄。しっかり聞いてください。妹は水澄といいます」
キツネ面が立ち上がり、また由佳を見下ろす体勢になった。


「みすみ……」
由佳は声に出してつぶやいた。
瞬間、嫌な予感が体の芯を貫く。


泉。
水澄。


それはよく似た言葉だった。
ドアごしに聞いた昂輝の声だけではどちらか判断することが難しいかもしれない。


あのときもし『水澄』と声をかけていたとしても、『泉』と聞こえていたかもしれない。
名前としてポピュラーなのは『泉』の方だから、由佳が勝手にそうだと思い込んだかもしれない。


岩上泉。
絶対に忘れてはいけないその名前が、最初から間違っていたとしたら?


由佳は自分でも知らない間にカチカチと歯を鳴らしていた。
さっきから恐怖に勝てず、全身が震えている。