といってもその笑顔は表面だけのものだ。
心からの笑顔なんて、あの日以来なくしてしまったし、取り戻したいとも思っていなかった。


『これから1年間よろしくな』
そう言って手を差し出されたから、なんとなく握りし返した。
人の体温なんて久しぶりに感じて少しビックリしたけれど、それだけだった。


由佳の心には無が続いていた。
あの日からずっと続く無。
その中に微かに見えるのは小さな炎だった。


葬儀のときに聞いた話は忘れていない。
あのときに感じた強い怒りが、無の中に炎として存在している。
なにもない中に彩りを添える唯一の存在だった。


それがあるから由佳は今日も生きているといっても過言ではなかったかもしれない。
そんな2年生になってすぐのことだった。
『今日からこのクラスの担任になります。岩上泉です』


教卓に立つその女性の姿に由佳は目を見開いた。