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だけど結局病院へ行くことはできなかった。
由佳は出かける準備をしている間にだんだんと取り乱してしまい、そんな状態で病院へ行っても迷惑になるだけだからと、母親に押し止められたのだ。
それからはずっと泣き通しだった。


どうして事故に遭ったのか、今昂輝はどんな状態にいるのか。
なにもわからないままで不安で仕方がなかった。
由佳が無理やりベッドに入らされたのは深夜1時を過ぎたところだった。


昂輝の家族から連絡があればすぐに起こすことを約束して、一旦は眠りについた。
そして昂輝の家族からよくない連絡が来たのは、翌日の朝のことだった……。


『昂輝くん、デート中だったんだって』
昂輝の葬儀中、誰か知らない男女がひそひそと話をしている。


大学の友人とか、先輩や後輩かもしれない。
その人たちは喪服姿だったけれど、大学生という華やかさを隠しきれていなかった。
『聞いたよ。彼女が車に轢かれそうになって、自分が……』


その言葉に由佳は彼らに視線をむけた。
昂輝の事故は彼女のせいで起こった。

岩上泉という見たことのない女のせいでおきた。


ポッカリと穴の開いた胸にふつふつと怒りが沸き起こってくる。