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今日も家庭教師の授業があるはずだった。
由佳は机の上にテキストを出して昂輝が来るのを待っていた。


『今日は遅いわねぇ』
昂輝はいつも5分前には自宅へやってくる。
時間ちょうどになっても姿を見せない昂輝に、リビングにいた母親は心配そうに時計に視線をむけた。


『ちょっとくらい遅刻することだってあるでしょ』
由佳にとって遅刻は別に珍しいものじゃなかった。
授業に送れることはしょっちゅうだったし、それに関して咎められても別になんとも感じない。


『昂輝くんはあんたとは違うでしょ。ちょっと、連絡してみるわね』
母親に一蹴されて由佳はふくれっ面を作る。
確かに昂輝の生真面目な性格からすれば何の連絡もなく遅刻するのはありえないかもしれない。


だとすれば、なにか大変なことが起きているんじゃないか?
そんな気がして今度はすぐに不安になってきた。
この時由佳は自分の気持が昂輝の言動を中心に左右されていることに気がついて、苦笑いを浮かべた。