岩上はホームルームのときの同様に教卓の前に立ってボソボソと説明を続けるだけだ。
その声をちゃんと聞いている生徒はA組には1人もいなかった。


「注意すれば100倍で帰ってくることがわかってるもんなぁ」


久貴がゲラゲラと下品な笑い声を上げて答える。
岩上は最初からおとなしくしていたわけではなかった。

授業をきかない生徒がいれば注意するし、生徒を呼び出したことも多々あった。
ちゃんと教師らしいことをしていたのだ。

だけどその結果がなにも残らなかった。
注意すれば更に教室の中は盛り上がり、授業は進まなくなる。

誰かを呼び出せば『自分1人が騒いでいたわけじゃありませぇん』と、反論する。
授業中に騒いでいた生徒全員を呼び出して注意しようとすれば、教室内と変わらない模様が繰り広げられる。

その繰り返しで、ついにはなにも言わなくなったのだ。
誰も聞いていなくても淡々と授業を進めて、45分間を耐え忍ぶ。
そんな感じになっていた。


「あ、忘れ物したかも」


校門が見えてきたところで進がそうつぶやいて立ち止まった。