だけどそのときに由佳はすでに動き出していた。
大股で教室へ入ってくると、岩上の近くにあった掃除道具入れのロッカーを開いたのだ。
そのまま岩上の体を両手で押してロッカーへ移動させる。


「ちょっと、なに!?」
とっさのことで体のバランスを崩してしまった岩上は、後方のロッカーに倒れ込んだ。
由佳はそのまま勢いよくバンッ! とロッカーを閉めたのだ。


それだけじゃない。
近くにあった机をロッカーの前に移動して、簡単には外に出られないようにした。
岩上はロッカーの内側からバンバンと扉を叩き「出して!」と叫んだ。


だけどもちろん由佳はそれを無視した。
「どうせ見回りがくるんだから、そこで待ってれば?」


由佳は化粧ポーチを乱暴に机か引張だして鞄に詰め込むと、そう言い残して教室を出たのだった。
これが、由佳が直接岩上へ手を下した最初で最後のできごとだった。


あとは全部他の生徒たちがやった。
由佳を満足させるために。
由佳にターゲットにされないために。


教室を出る寸前にロッカーの中からすすり泣く声が聞こえてきたけれど、由佳はもちろん足を止めなかったのだった。