終わりのホームルームが終わって一旦職員室へ戻ったはずの岩上だけれど、今は教室後方でなにか作業をしていた。
開いたドアからその様子を覗いてみると、教室に常備している辞典の背表紙を立ったまま修復しているのがわかった。


あんなことをしても、このクラスに辞典を使う生徒なんて1人もいないのに。
時々辞典を手にしている生徒がいても、それは授業中に寝るときに枕として使うためだった。


あとは放置されている。
そんなものに気を配っている岩上の姿を見ると、ますます腹がたった。


辞典なんてどうでもいいはずだ。
あれだけのイジメを受けておいて、どうしてそんなことができるんだ。


そんな気持ちが一気に溢れてきた。
岩上のこの時の行動は『由佳たちのしていることなんて痛くも痒くもない』と、言われているようなものだった。


由佳は奥歯を噛み締めて岩上を睨みつけた。
その視線に気がついたように岩上は手を止めて、由佳へ視線をむけた。