久貴はあの時、岩上の右手を複雑骨折させた。
それが原因で3日間ほど学校を休んだ岩上だったけれど、手に包帯を巻きつけた状態でまた学校へやってきて、教卓に立った。


それはもはや執念と呼べるもので、クラス全員が岩上を恐ろしいものでも見るかのような目で見始めていた。
「はい、それでは次の問題に-―」


キツネ面がそう告げて次の準備に移ろうとしたとき、倒れていた久貴が不意に足を振り上げた。
久貴の右足はカメラを置いてある三脚にぶつかり、カメラが横倒しに倒れ込む。


「あぁっ! なんてことするの!?」
キツネ面が慌ててカメラに駆け寄っていく。


とっさのことで本人は気がついていないようだけれど、その瞬間女性の話し言葉が出ていた。
やっぱりこいつは岩上か……?
進の体を椅子ごとひきずって運んだ。


だから男かも知れないと思っていたけれど、またわからなくなってきてしまった。
由佳は心の中で軽く舌打ちしつつも、カメラを倒した久貴を称賛していた。