机の上にはちゃんと教科書や筆記用具も出ていて、その光景は他の生徒から奇異に映った。
と、そのときだった。
久貴の肘が当たって筆箱が音を立てて落ちた。


ファスナーが開けっ放しになっていたため、中のシャーペンや消しゴムが散乱する。
床に散らばった筆記用具に久貴は盛大なため息を吐き出して立ち上がった。


そして拾おうとかがみ込んだとき、岩上が近づいてきたのだ。
「思いっきり落としちゃったねぇ」
岩上の声はどこか楽しげだった。


普段は全く授業を聞いていない久貴が、真面目に授業を受けている姿が嬉しかったのかもしれない。
岩上は躊躇なくしゃがみ込み、久貴の筆記用具に手をのばす。
あちこちに散乱したものを集めるには、少し時間が必要だった。


「先生、ありがとう」
久貴がお礼を言ったのはよほど珍しかったのか、岩上が顔を上げて動きを止めた。


そして照れ笑いするように笑顔を浮かべて「いいのよ、これくらい」と言った、その瞬間だった。
床に手を次いていた岩上の右手を、久貴は容赦なく踏みつけたのだ。