由佳が醸し出す重たい空気をものともしない。
「だからつまんないんでしょ」
由佳が軽く声を荒げる。


和美はそれだけで黙り込んで後ずさりしてしまうが、進はまっすぐに由佳を見つめたままだ。
久貴からすれば悔しいけれど、進は由佳のことを本当に正面から見てぶつかっていると思う。


自分が標的にされるという恐怖心はどこにもないように見えた。
「そう言われてもなぁ。俺たちも随分危ない橋を渡ってきたし」
「なによそれ、私のせいとでもいいたそうだね?」


由佳が進へ噛み付く。
それは珍しい構図だった。
由佳も進にはどこか甘いところがあったのだけれど、今日はそれが鳴りを潜めている。


久貴は舌なめずりする気持ちでふたりの様子を伺った。
進は由佳のことが好きで間違いない。
だけどそろそろ由佳の傍若無人ぶりを止めに入りたいのかもしれない。