「もっと楽しいことしてよ」
相変わらず岩上は学校へ来ていて、由佳は最近常に不機嫌そうだった。
新しいイジメが見つからないのがその原因であると、薄々みんな気がついていた。


「き、今日の放課後カラオケでも行く?」
明るく言ったのは和美だ。
右手でペンケースを持って歌う仕草をする和美に由佳が盛大なため息を吐き出す。


「そういうんじゃないでしょ。ね、わかってるよね?」
顔を覗き込むようにそう質問されて和美は黙り込んでしまった。
そう、由佳が欲している楽しいことはそんなことじゃない。


カラオケとかボーリングで得られることじゃない。
誰もがわかっていた。
「由佳は、岩上が学校に来なくなれば楽しいか?」


その質問をしたのは進だった。
急な質問だったので和美がビクリと肩を震わせた。
そういう質問は、誰もが意識的に避けてきたものだった。
「まぁ、それはそうかもね?」


机に肘をつき、その手に顎を乗せて答える。
怠慢な表情で進を見上げた。
「でも、あいつ結構手強いよな」
進はいつもの調子を絶やさずに話を続ける。