A組は長い間こんな感じだった。


「ご、ごめんね先生声が小さくて」


わざと自虐的に言って笑って見せるととたんに生徒たちが白けたように視線をそむけ、自分たちの好きなことに没頭し始める。
こちらがどう対応しようと、やはり彼らには通じない。

一瞬、由佳と視線がぶつかった。
由佳が勝ち誇ったように微笑む。
その唇には岩上の密かに狙っていた新作リップがたっぷりと塗られていた。

あれを買わなくてよかった。
もしもデパートに立ち寄ったときに購入して、付けて出勤していれば由佳とその取り巻きたちになにを言われたかわかったものではない。

欲しいものを買わずによかったと安堵する自分に嫌気が差してきた時、神の救いのようにホームルーム終了を告げるチャイムが鳴り始めたのだった。