アンハッピー・ウエディング〜後編〜

女装・男装コンテストの準備…か。

…これほど気の進まない準備が、他にあるだろうか?

「コンテストの衣装って、どうするんです?自前ですか?」

「考えたくねぇよ、そんなこと…」

「気持ちは分かりますけど、考えない訳にはいかないでしょう」

…ですよねー。

別にどうでも良くね?

寿々花さんも男装するそうだし。制服交換しようぜ。それで解決だろ。

あ、でも無理か。

寿々花さんは俺の制服を着れるだろうけど、俺が寿々花さんの制服を着るのは、さすがに小さい気がする。

「悠理兄さん、自前の衣装とか持ってねーの?」

「持ってる訳ねーだろ。アホか」

自前で女モノの服なんか持ってたら、逆に気持ち悪いわ。

「悠理さんの場合、姉妹もいらっしゃいませんしね。母親と同居している訳でもありませんし」

「普通に、無月院の姉さんから洋服借りれば?」

「そうしたいところだけど…。あの人、ろくに洋服持ってないからな…」

制服以外の服は、未だに1〜2着しか持ってない。

夜だって、未だに俺のお古ジャージを着て寝てるくらいだし。

お嬢様が皆衣装持ちだと思ったら、それは大きな間違いだ。

「じゃあ仕方ねぇな…。自腹切って買うしかねぇ」

…冗談だろ?

「何で、俺がそんな下らないことの為に身銭を切らなきゃいけないんだよ…?」

こんな無駄遣いがあるか?

どうせ、コンテストで一回こっきりしか着ないのに。

女装の為に出費なんて、冗談じゃない。

そんなことに無駄金使うくらいなら、コンビニの募金箱に放り込んだ方が、余程有益な出費だ。

「つってもなぁ…。学校から支度金が出る訳でもないし…」

「クラスで募金でも募ります?意外とすぐ集まるんじゃないですか。哀れな悠理さんを助けると思って…」

そんな虚しい同情の募金は要らねぇよ。

誰かから服を借りるか…。でも、誰から…?

…あぁ、もう考えるの嫌になってきた。

「…女装の話はもう良いよ。それよりも…」

「女装の話も大切だろ?」

「大切じゃねぇよ。それより、クラスの出し物についても考えるべきだろ」

「あー。『星見食堂』な?」

そう、それ。

どうせならそっちの話をしようぜ。

…しかし、『星見食堂』って仮の名前だと思ってたんだが、マジでその名前で開店するつもりなのか?

ダサいから変えねぇ?普通に『一年一組食堂』とかで良いだろ。

「メニューをどうすっかなー。ここはお洒落カフェ風に、パスタとパンケーキのセットとか?」

「そういうお洒落な店は、僕達がやるまでもなく、女子部の何処かのクラスがやるでしょう」

だろうな。

それこそ、寿々花さんのクラスのメイドカフェとかな。

「あ、そうか…。並みのことをやったんじゃ、さすがに女子部には敵わないもんな…」

向こうの方が料理上手なお嬢さんが揃ってるし。

予算だって、女子部の方が格段に多い訳だから。

…まぁ、女子部に張り合おうとするのが、そもそもの間違いなんだが。

「…よし、こうなったら、自分らに出来ることは一つだ」

「…何だよ?」

「うちのクラスの『星見食堂』の売りは、何と言っても悠理兄さんが作るお袋の味。ってことで…オシャレ度は捨てて、家庭の味で勝負しよう」

…何だよ。俺んちの家庭の味って。

それ、売れるのか?