【完】イケメン同級生に毎日告白された結果。







「さぁ、本日最後の種目です!!」




今日はもう聞き飽きた、放送委員の声。



ついに選抜リレーの時間がやってきた。




ご褒美の件をほんのりと思い返す。
頑張ったら…って言ってたけど、高嶺はきっと頑張っちゃうよ。




信じてるもん、あたし、高嶺のこと。





──パンッ





瞬く間に鳴り響くピストルの音。



走り出した高嶺は、誰よりも輝いている。




喧騒はどんどん遠のいて、あたしの世界には高嶺しかいなくなった。
…かっこ、いい。




呆然とそんなことを考えちゃうくらいには、見とれていたんだと思う。




あんな真剣に走ってる高嶺、見たことない。
きっと周りの女子もたくさん騒いでいるんだろうけど、高嶺は今…あたしのために走ってる。





それだけは、自信を持って言えた。




優越感に浸りつつ、高嶺から目が離せない。





スパッ…と、ゴールテープを切ったのは、高嶺。




「見事一位に輝いたのは、2年7組、柊木高嶺くんです!!」





わーっと歓声が鳴り響いて、ようやく現実に引き戻される。



全員がゴールしたあと、一目散に帰ってきた高嶺は。





「楓夕!! こっち」





あたしの腕を引いて、嬉しそうに走った。










「た、高嶺…っ、待って…」




さっきまで全力で走っていた余韻なのか、高嶺のスピードについていけない。



あたしはもう息切れしてるよ…。





「こ、ここ入っていいの?」


「先生が封鎖するの忘れたみたい」





相変わらず楽しそうに笑いながら、あたしを中庭へ連れ出す高嶺。
こんな満面の笑み…あたし以外に見せないでね。





「高嶺…閉会式もうはじまるよ?」


「サボろ」





サボる…って。
せっかくここまで参加したのに。



まぁ、閉会式なんかでなくてもいいのかな…なんて、高嶺に甘いあたしは思う。





「楓夕、ここ座って」


「…え?」




高嶺が指さすのはベンチ。
言われるがまま腰をかけて、高嶺を見守る。




お互い体操服なのは…ちょっと新鮮かも。





「じゃ、失礼します」





…え?
あたしが反応するよりもはやく、あたしの太ももの上に高嶺が頭を乗せて…。




これ…もしかしなくても、膝枕ってやつ…?











「新鮮な景色だ」


「っ……」




な、なにこれ!
恥ずかしぬ…っ




下からあたしを見上げてニヤニヤする高嶺は、ひどく嬉しそうですけども…?





「俺の言ってたご褒美ってこれ」


「…ひ、膝枕のために頑張ってたの?」


「そうだよ。悪い?」





悪い…とは言えない空気。
まぁ…どんな形であれ、高嶺のやる気が出たんならよかったのかな。





「ね、楓夕。俺頑張ったんだよ?」


「…うん」




分かってるよ。
誰よりも見てたから。





「頭撫でてよ」


「へっ…!?」





まさかそんなお願いをされるとは思わなくて素っ頓狂な声が出た。



頭…撫でる?
そりゃ、高嶺の髪はサラサラそうだから、ずっと触ってみたいな…とは思ってたけど!!




それとこれとは別って言うか…!





「嫌なの?」




…いや、じゃ、ないです。




あたしは恐る恐る高嶺の頭に手を伸ばして、ゆっくり撫でる。




そんな心地よさそうな顔されたら…。
もっと撫でたくなるじゃん。




…なんだか、高嶺って。




「犬みたい」



「…犬?」




まずい。
声に出てた…。



だけど、直後に高嶺はまた口角を上げて。





「そう、俺犬だからね。…楓夕が飼いならして?」


「~~っ……」





顔、あっつい。
冬なのにここだけ夏だよ!!




…だけど。
またこうして高嶺と笑い合えるのが、幸せで仕方ない。














俺が何年もあなたしか見てないこと、気づいてたのかな。



…気づいてないんだろうな。
先輩、変なとこ鈍感だから。





あーあ。
ホント、最後まであほだったね。




バカで、天然で、強がりで、いつもきまって先輩面。




…そういうところ、ぜんぶ大好きだった。





先輩。
俺はね、気づいてたよ。



もうずっと前から、柊木センパイに目奪われてたでしょ?




…なんでそんな分かりやすいのかなぁ。




もうちょっと、俺に考慮してくんない?
ムリか…。って、何度も繰り返した自問自答。




この先も続くのか、それはまだわかんない。





でも、伝えてみないことにはね。





「おはよ、先輩」





そう挨拶すれば、先輩はマフラーにうずめた顔を驚かせた。



その顔、かわいー。
出来れば俺のものにしたかったな。



…隣に、置いておきたかったな。




あー、怖い。
怖いよ、俺。




だって、何年も好きだった先輩に振られんだよ、今日。




…夜になったら、泣いていい?
それくらい許してくれなきゃ、俺はたぶん先輩を悪魔って呼ぶ。











「ち…ちさ、くん?」




その声。



その呼び方。



その黒髪。



その白い肌。



その瞳。



なんでこんなに、好きなんだろうな。





「驚きました?」


「そりゃもう……だって、いつもは…」





そこまで言いかけて、口を閉じる先輩。
…気づいた? 成長したね、先輩。



あぁ、今も柊木センパイのことで頭がいっぱいなんだね。




俺に付け入る隙、ないか。



…分かってたけどね。
いいけどね。




先輩がいつ来るかわかんなかったから、今日ははやめに家を出て学校の最寄りで待ってた。




「行きましょうか」




手は差し出さない。
虚しくなるだけだから、最後はあっさりがいい。



「…ん」と、もう一度マフラーに顔をうずめる先輩が俺の隣を歩く。




ねえ。
その赤くなった顔は、寒さのせい?



先輩は…一度でも、俺のことを意識してくれた?
ドキドキしてくれた?










「ちさくん…珍しいね。今日は」


「はい。たまには早起きもいいなって」




朝が苦手な俺は、基本遅刻ギリギリの電車に乗る。
だから先輩と朝から会うことはほとんどない。




「新鮮で、うれしい」





先輩はずるい。
そんな風に微笑まれたら、少しでも期待したくなる。




俺はね。
先輩に、好きになってほしかったよ。





「俺とでも嬉しいんですね」


「え…?」





ごめん、先輩。
やっぱりあっさりなんて無理だよ。



最後の最後まで抵抗したくなる。



なんかの奇跡が起きて俺のこと好きになんないかな。





「先輩さ、俺のこと、ちょっとでも好きだった?」


「…好き、だったよ」





後輩として? 男として?



…前者だろうな、先輩のことだし。





「どうしたの、ちさくん」




笑ってごまかそうとしてるでしょ、先輩。



仕方ないな。
ごまかされてあげる。









「最近寒くなってきましたね」





景色を眺めながら、適当な話題を振る。
余韻、楽しませてよ。





「そうだね。ちゃんとあったかくして寝てる?」


「先輩こそ」


「なっ…子ども扱いした?」





こっちのセリフ。
先輩、わかってる?



俺はいつまでも可愛い後輩じゃないんです。



大人しい弟でもないです。




…先輩の前だったら、男でも、オオカミでも、なれるんだよ。





「マフラー巻いてる先輩、かわいくて好き」


「っ……そ、そう? 普通だけど…」





うん。
もっとね、俺でドキドキすればいいなって、思ってた。




遠くの方に見える校門。
そこにもたれかかってスマホを眺めてる人影を見つけて、目を細めた。




…はぁ。
俺、アンタにだけは負けたよ。





「ね、先輩」


「…ん?」


「最後にひとつだけわがまま聞いてよ」





だんだんと校門へ近づくふたり。
ふっと、その待ち人がスマホから目をそらし、こっちを向いた。





「…昼休み、先輩の時間を俺にください」





ぜんぶ、言うから。



あの人にも負けないくらい強い想い、伝えるから。




だから先輩、お願い、頷いて。





「…うん」




変なとこ鈍感で変なとこ察しのいい先輩。



なんの話か、当ててみて。





「楓夕!」




遠くから駆け寄ってくる俺のライバル。




昼休みだけ、先輩のこと貸してね。



それ以外は、アンタにあげる。
譲るよ、これから先も。





──俺の負けだ。












そして昼休み。
一緒に食べようと誘ってくる女子を押しのけて、俺は先輩に送った待ち合わせ場所へ走る。



どうせ食事も喉を通らないだろうと思ったから、今日の昼はパンだけ。
先輩にもご飯持ってきていいよって言ってある。





「…すいません、遅れました」





そこへ行くと、先輩のほうが先について座っていた。

屋上前の階段。
ここは人通りがほとんどないから内緒話をするときに最適なんだよね。




って…もうお弁当開いてるし。
俺に遠慮しないところ、先輩らしい。





「ご、ごめん…四時間目体育でおなかすいてて…」


「別にいいですよ」





必死な言い訳をするところも、可愛い。



…ホント、ぜんぶ、好きだったんだなぁ。





「隣座って良い?」


「え? うん…」




俺は先輩の隣に腰を下ろして、パンの袋を開ける。



廊下にいても息は白い。




「先輩、寒くないですか」


「うん、足がちょっと寒いくらい」




先輩。
冬になったら、ちゃんとタイツとか履いてよ。



スカートだけなんて絶対寒いもん。









「これかけといて」





そういって、俺はブレザーを脱いで先輩の足にかける。
最後くらい、とびきり優しくさせてね。





「いいの…? ちさくんは…」


「子供は風の子なんで」


「…子供って…」




卵焼きを口に運びながら、先輩は不思議そうな顔をする。



こういうときは子ども扱いしないんだね。





「先輩のお母さんっておいしそうなお弁当作るよね、いつも」





隣のお弁当をみながら呟くと、先輩は恥ずかしそうに顔をあげる。





「あ…これ、実はあたしが作ったの」


「…え、ぜんぶ?」


「うん。お母さん監修の元だけど…」





思わず喉を鳴らす。
それを聞いたら100倍美味そうに見えてきた。





「どれか一個ください」


「いいよ。この卵焼き食べてみて? 自信作なの」





そういって、卵焼きを箸でつかんだ先輩。
…なんのためらいもなく、”あーん”をしようとするんだから、怖い。