「先輩っ!!」

「お疲れ様ー!」

 見事リレーで一位を取った勇人は、私へと溢れんばかりの笑顔を向けてくる。


「リレー一位取った!」

「おめでとう!」

 私達は自然とハイタッチをする。

「かっこよかったよ」

「ありがと!先輩の応援のおかげ!超聞こえてた!」

「ほんと?ちょっと恥ずかしいね」

「そんなことないし!先輩が見ててくれてるってわかって、更に頑張れたんで!」

 勇人は嬉しそうににこにことしている。


「先輩、今日はちょっと顔色いいっすね、よかった!」

「ん?顔色?」

「最近目の下真っ黒で、元気なさそうだったから」

 あ、そうかも。受験のことで頭がいっぱいいっぱいだったから。

 変なとこ見られちゃってたなと思っていると、勇人は徐に私の頭に手を置き、優しく撫で始めた。


「!」

「先輩も頑張ってえらいえらい!」

 急に後輩に頭を撫でられ、私の頬は熱を帯びる。恥ずかしくはあったが、心が優しく温まっていく感覚があった。


「俺も、ご褒美もらっていい?」

 勇人が急に耳元でそんなことを言ってくるので、私の心臓は一段と大きく跳ねた。

 私は慌てて後退ると、ポケットからお菓子の入った包みを取り出した。


「は、はい!ご褒美!ちゃんと用意してたよ!!」

 私は少しの動揺を隠すように、それを勇人に差し出した。

 勇人は一瞬きょとんとして、吹き出すように笑い出す。


「あはは!お菓子って!凛先輩らしすぎる!こういう場合のご褒美って言ったら、キスとかでしょ!」

「キス!?」

 何を言い出したのだこの後輩は!?


 私が顔を真っ赤にして慌てている間も、勇人はずっと笑っていた。

「ま!そんな先輩が好きなんだけどさ!」

 とさらっと好きと言われてしまったけれど、これはどういう意味の好きなんだろうか。聞く勇気なんて私にあるわけない。


「先輩、俺、絶対先輩を振り向かせてみせるからね」

 覚悟しておいてよね、と言わんばかりの不適な笑みで彼は私の手を握った。みるみるうちに体温が上がる。


 私はこの時初めて、可愛い後輩を男の子として意識してしまった。



 きっと二人の恋がはじまるまで、あともう少し。



終わり