【短編】琉架くんは幼馴染を甘やかしたい






あぁ、神様、助けてください…。





「正直に答えて、星花」


「る、琉架く……っ」


「言わないと、口塞ぐよ」





…どうして、こんなことになっているのでしょうか…!?


















いいお天気。
10月の風はすこし心地いい。




いつもより上機嫌で歩く通学路。
隣には気だるげな男、一名。





「…ねむ」





眠いって思うから眠いんだよ、と心の中で突っ込みつつ、それには触れない。




あたし、白石星花(シライシ セイカ)。
この春高校生になったばかりの16歳。



ぴちぴちJKってやつだし、たぶんね。




そしてこの隣で数秒に一度あくびをこぼしている輩。
名前は、小柴琉架(コシバ ルカ)。
同じく16歳。





琉架くんとは生まれた時から一緒。
もう、ほとんど兄弟というか家族みたいなもん。



どっちかっていうと琉架くんのほうが弟っぽいかな?



小学校、中学校と一緒にあがってきて、なぜか高校まで一緒。



こうしていられるのもあと数年だよなー、と思いつつ。
琉架くんの隣にいられるのがうれしいなんて、本人には言わない。





そう。あたしたちは、いわゆる幼馴染。



仲の良さは…まぁ、普通。



毎朝あたしが琉架くんを叩き起こしに行ったり、一緒に登校したりする以外は、ホント普通の同級生となんら変わりない。










「…なんか、ご機嫌だね、星花」




なんてこった。
まさかあのぼんやりとした琉架くんにまで見破られてしまうとは。




「今日は珍しく朝ごはん食べたからね。寛大なんだよ」




ふふん、と鼻を鳴らした。
だけど、あたしが予想していた反応とは裏腹に、琉架くんは不思議そうな顔をする。





「そういや、なんで星花はいつも朝ごはん食べてこないの?」





…え?




あたしの朝は、自分の朝食をとることよりも先に琉架くんの家に行くところからはじまる。




あわよくば琉架くんの家でご飯食べれたらいいなぁといつも思うんだけど、たいてい琉架くんの身支度に世話を焼いていたら時間がなくなっていたりするわけ。





…だから、そう!
あたしが朝ごはんを食べられないのは、琉架くんのせいなんです。





「…てかそれってさぁ、一秒でも早く俺に会いたいからだよね」




琉架くんが。
いつも通り、ぼーっとしながら呟いた。



生気を失った声色。


…なのに、どうしてこんなにあたしの胸をドキドキさせる?











「…いや、違いますけど」


「嘘だぁ」


「ホント!! 琉架くんなんて、世話の焼ける弟くらいにしか思ってないしっ」





ツンケンしながら答えれば、琉架くんは面白くなさそうに「ふぅん」とそっぽを向く。



なによ。
自分から言い出したくせに。
変な琉架くん。…それは昔からか。





「はやく自覚してね」


「…へ?」




なんのこと? って聞き返しても、琉架くんは相変わらず風景に夢中だ。
自覚ってなに…? き、気になる…!!



でもここでこれ以上追求したら負けな気がして、あたしも黙る。





「見て、星花。ちょうちょ」





そういって笑う、無邪気な琉架くんを見てたら。
…もう、気になっていたことなんてどこかへ行ってしまった。
















「学級委員ー、ちょっといいかぁ」




休み時間。
先生に呼ばれた。



あたし、白石星花。
実は学級委員も務めてたりする。




同時に席を立ったのは、同じ学級委員の森(モリ)くん。
ふたりして先生のところへ歩を進め、要件を聞く。





「さっきの授業で使った辞書な、資料室まで運んでおいてくれ」


「えー…」


「はい」





嫌そうな森くんに、とりあえず返事をするあたし。
辞書って…。
絶対重いよ。無理だよ…。




あとはよろしく、と先生が教室を出て行ったあと、森くんと顔を見合わせる。





「やるかぁ」


「だね」





ふたりで手分けして辞書を抱える。
もうね。想像以上に重いけど、そんなこと言ってられない。



貴重な休み時間を割いてんだから…。











ーードンッ





無事。
資料室に辞書を思いっきり置いて、伸びをする。



重いもの持って肩と腰が痛い。
おばあちゃんかな…。





「おつかれ、白石」


「うん。森くんも…」


「ジュース奢るよ」


「…えっ、いいよ。むしろあたしが奢る」





森くんとはたまにこういうしょうもない言い争いをする。


今回は、ジュースどっちが奢るか論争。
結果。…キリがないので、あたしが折れた。





「よしっ」


「…なんで嬉しそうなの」





普通、おごりって嫌なものの代名詞じゃない?
あたしだけ?





「んー。白石に貢げるから?」


「……なにそれ」





一瞬固まってしまった。
貢ぐって…。
それこそ、嬉しいものではないでしょう。