「副社長、コーヒーをどうぞ。こちらは住谷さんが持って来てくださったビターチョコでございます」

副社長室に戻ると、真里亜は文哉のデスクの端にコーヒーカップとチョコを載せたプレートを並べる。

お辞儀をして自分の席に戻ろうとすると、ソファにカップを並べていた住谷が顔を上げた。

「真里亜ちゃん。私達はここで休憩しませんか?」
「は、はい?!」

トレーを胸に抱えたまま真里亜は固まる。

「そ、そんな。副社長室のソファで休憩なんて!」

(それにサラッと下の名前をちゃん付けで呼ぶなんて…。恋人の副社長の前でそんな)

チラリと文哉に目を向けると、案の定固まっている。

「あの、私は給湯室でいただきます」
「えー、そんな所で食べたらせっかくの美味しさが半減するよ。ここのケーキ、本当に美味しいから」

ほら、座って!と、住谷は先にソファに座ってから真里亜を促す。

(いやいや。あなたは恋人だからいいけど、私は絶対怒られますって!)

「あの、本当に私は結構です。住谷さんは、どうぞソファで召し上がってくださいね。あ!それなら副社長もソファで召し上がってはいかがでしょう?コーヒー、こちらにご用意しますね」

真里亜はデスクに置いたばかりのコーヒーとチョコを、ソファの前のテーブルに移動させる。

「それでは、お二人でどうぞごゆっくり」

おもむろに頭を下げて、真里亜は部屋を出て行った。