「阿部さんは、確か入社3年目でしたっけ?」

紙袋からケーキの箱を取り出しつつ、住谷が尋ねる。

「はい、そうです。新卒で入社して、ずっと人事部にいました」
「ということは、今25歳?」
「まだ24歳で、今年で25になります」
「そうなんですね。若いのにしっかりしてる。実は昨日、人事部の部長に言われたんですよ。早く阿部さんを人事部に戻して欲しいと」

え?と、真里亜は驚く。

「部長がそんなことを?」
「ええ。優秀な人材に抜けられて、困っている。アベ・マリアはうちになくてはならない存在なんだって。なかなかチャーミングなニックネームですね。皆さんからそう呼ばれているのですか?」

うぐっと真里亜は言葉に詰まる。

「いえ、あの…。本名です」

え?と今度は住谷が首を傾げる。

「私、下の名前は真里亜といいます」
「ええー?!そうだったんですか!すごいですね」
「すみません。美しい方なら似合うのでしょうけど、私みたいな者がそんな名前…。申し訳なくてフルネームは名乗れません」
「まさかそんな。素敵じゃないですか。人事部の方も、あなたにぴったりだからこそ、親しみを込めてアベ・マリアって呼んでいるのでしょうね」
「いえ、半分からかっているだけなんです」
「そうですか?でも私はもう、あなたのことは真里亜さんとしか思えません」

その後もしきりに、
「すごいなあ。初めて会ったよ、アベ・マリアさん」
と感心していた。