「車の中からお姿をお見掛けしたことがあります。一目惚れと言えばただそれだけのことです。それでも、子どもたちをカートで散歩させながら優しく向き合う姿に惹かれました」
二歳クラスの子は歩いたりもするけど、乳児クラスしかない小規模保育だから散歩はいつもカートを使っていた。私一人で散歩させることはないから、他にも保育士はついている。私よりもキレイな人も若い人もいる。そのなかで、私に見惚れてくれたというのが信じられなかった。
「それからたびたび室生にあの駅前を通るように言いつけて、仕事中や通勤中のお姿を拝見しておりました。ストーカーのようなことをして、申し訳ありません」
抱きしめられながら、頭上で春政さんが頭を下げたのがわかった。
春政さんの心音が聞こえてくる。それにつられて、私の胸も高鳴っていた。
「私は保育士である百華さんを好きになりました。桜雅も私を構成する要素の一つではありますから、関係ないとは言いません」
真剣な春政さんの鼓動が伝わってくる。
私の肩をつかんで体を離し、また真っ直ぐな眼差しで私を見てくる。
「私と、将来を共にすることを考えてはいただけないでしょうか」
保育士である私。
桜雅財閥の御曹司である春政さん。
肩書きなんてくだらない? それでも保育士の道を選んだ先に今の私があるし、春政さんも桜雅財閥の御曹司として生まれ育った人生の上にいる。
私が好きになったのは桜雅財閥の御曹司じゃなくて、スーツの似合う可愛い人。それでも、春政さんが桜雅財閥の御曹司なのに変わりはない。
結婚を前提じゃなかったら、私はこの問いかけにすぐ頷けただろうか。甘い夢の期間が伸びただけで、いつか醒める夢として享受したのかもしれない。
私を野良猫と呼んだ麗華さんの言葉が蘇る。
一時の愛玩。一夜の甘い夢。思い上がりも甚だしい。
一夜の甘い夢だから、私は春政さんを受け入れた?
一夜の火遊びのつもりだったのは、私の方だった?
私は、春政さんと向き合っていなかった。
二歳クラスの子は歩いたりもするけど、乳児クラスしかない小規模保育だから散歩はいつもカートを使っていた。私一人で散歩させることはないから、他にも保育士はついている。私よりもキレイな人も若い人もいる。そのなかで、私に見惚れてくれたというのが信じられなかった。
「それからたびたび室生にあの駅前を通るように言いつけて、仕事中や通勤中のお姿を拝見しておりました。ストーカーのようなことをして、申し訳ありません」
抱きしめられながら、頭上で春政さんが頭を下げたのがわかった。
春政さんの心音が聞こえてくる。それにつられて、私の胸も高鳴っていた。
「私は保育士である百華さんを好きになりました。桜雅も私を構成する要素の一つではありますから、関係ないとは言いません」
真剣な春政さんの鼓動が伝わってくる。
私の肩をつかんで体を離し、また真っ直ぐな眼差しで私を見てくる。
「私と、将来を共にすることを考えてはいただけないでしょうか」
保育士である私。
桜雅財閥の御曹司である春政さん。
肩書きなんてくだらない? それでも保育士の道を選んだ先に今の私があるし、春政さんも桜雅財閥の御曹司として生まれ育った人生の上にいる。
私が好きになったのは桜雅財閥の御曹司じゃなくて、スーツの似合う可愛い人。それでも、春政さんが桜雅財閥の御曹司なのに変わりはない。
結婚を前提じゃなかったら、私はこの問いかけにすぐ頷けただろうか。甘い夢の期間が伸びただけで、いつか醒める夢として享受したのかもしれない。
私を野良猫と呼んだ麗華さんの言葉が蘇る。
一時の愛玩。一夜の甘い夢。思い上がりも甚だしい。
一夜の甘い夢だから、私は春政さんを受け入れた?
一夜の火遊びのつもりだったのは、私の方だった?
私は、春政さんと向き合っていなかった。