そんな風に星空を見ながら他愛もない話をして、遅くならないうちにと私たちが出会ったあの駅まで戻ってきた。

「遅くまで連れまわしてしまって、申し訳ありません」

「いえっ。明日も休みですし、全然遅くないです。大丈夫です」

 ロータリーに止められた車内で、お互い頭を下げて別れの挨拶をする。
 それから、沈黙が訪れる。
 私が車を降りれば、このデートは終わり。私が一方的にそう思っているだけとはいえ、このひと時が終わってしまう。

「すみません。ちょっと名残惜しくて……」

 恥ずかしくて、春政さんの方を見れなかった。

「ありがとうございました」

 目を逸らしたままドアノブに手をかけ「さようなら」を言おうとしたとき、強い力で引き留められた。

「あの、すみません。僕も、名残惜しいです」

 驚いて振り返ると、春政さんも私から目を逸らしていた。
 顔を真っ赤にして、下を向きながら言葉を尽くしてくる。

「あの、よかったらもう少し一緒に居られませんか。アルコールでも、どうでしょう。もう、送ってはいけなくなりますが……」

 大きな体を縮こませて、上目遣いで私を伺ってくる。その目。
 初めて出会ったとき、かわいい人だと思った。私が好きになったのは桜雅財閥の御曹司じゃなくて、スーツの似合う可愛い人。

「僕の言っている意味、わかりますか?」

 半ば呆然としながら、春政さんの言葉に頷く。
 夜を共にする誘いだった。

 こんな駅前のロータリーなんかじゃなくて、さっきの夜景を見ながら言われた方がよっぽどロマンチックだったと思う。
 でも、春政さんは言わなかった。フェアじゃないと言って言葉を飲み込んだ春政さん。その言葉の意味が今分かって、胸の中が熱くなる。

 外灯も少ない私有地の山の中。車は春政さんのもので、もしあの状況で誘いを断れば帰りの車内は相当気まずかったと思う。
 気まずいだけならまだ良い。春政さんはそういう人じゃないってわかってるけど、人によっては断られたことに腹を立てて置き去りにされてしまうかもしれない。
 私がそういう不安を抱くかもしれない。
 だから、春政さんはあの場所では私を誘わなかった。

 そこまで紳士な人が、顔を真っ赤にして初心な様子で私を誘惑してくる。

「はい、わかってます……」

 愛しさが込み上げて、私は強く手を握り返した。