春政さんが息継ぎをするようにグラスを手に取り傾けると、彼の喉が上下する。
 ワイドカラーから覗く喉仏。ボウタイを解いてその喉に触れたいと思った。
 そんなよこしまな思いを抱きながら談笑していると、女将さんがチーズをワゴンで運んできてどれにしますかと聞いてくる。
 デパートの地下で横目に素通りするようなチーズの数々に混乱していると、春政さんがクセがなく食べやすいものを教えてくれたので、そのままそれをオーダーする。
 もうディナーも終盤だった。
 チーズの後に小さなケーキやフルーツも出てきて、これはもうさっきのシャーベットみたいなお口直しじゃなくてさすがにデザートで合ってると思う。

「カフェインは大丈夫ですか? 眠れなくなる体質の方もいらっしゃるようですが」

 勝手知ったりといった様子で、春政さんは本来なら女将さんが聞いてくるようなことを先回りして聞いてきてくれる。たぶん、さっきのチーズの説明も女将さんの役割だったんだと思う。
 そうやって世話を焼いてくれるのが本当に拾った野良猫の世話をしているようでもあって、それでいて私と会話をしたがってくれているようにも思えて、嬉しかった。

「割と平気な方です」

 コーヒー党というわけじゃないけど、好きでたまに飲むし遅い時間に飲んでも眠れなくなるとか悪影響はないタイプだった。

「それはよかったです。が……今夜は眠らずに、もう少しお付き合いいただけないでしょうか?」

 その言葉に、ふわりと花が咲くような思いだった。
 フルコースのディナーに会話を楽しみながら、夜は深まっていた。さすがにもう食事を終えたら解散だと思っていた。けど、まだこの後がある。

「星が綺麗な場所があるんです」

「はっ、はい……!」

 私は前のめりに応えていた。
 コーヒーと小さな焼き菓子が出てディナーは終わりだったけど、私と春政さんの夜はまだ続く。