「おいしっ」

 白身魚の後にシャーベットみたいなのが出たから終了の合図かと思ったけど、どうも違ったみたいで今度は肉料理が出てきた。
 ナイフいらなかったんじゃないかっていうぐらい柔らかなお肉を口に運ぶと、思わず声が出る。
 霜降りみたいなお肉が出るかと思えば意外と赤身で、脂身の甘味だけじゃなくてお肉がしっかり美味しかった。

「ここの肉は僕も気に入っているんですよ。人間も食べられるような飼料で育てられている牛で……実は、僕もその飼料食べたことあるんですけど」

「え? 牛のごはんをですか!?」

「言えばたぶん出てくると思いますよ」

 まさかの裏メニュー、牛の飼料!
 晴政さんが女将さんを呼んで持ってくるよう頼んだけど、女将さんが持ってきたのは皿に乗った飼料ではなく、ガラスの瓶に入った飼料だった。
 裏メニューじゃなくて、インテリアの一つのして置いてあるだけみたい。
 晴政さんが食べたっていうのは、ここじゃなくで牧場に行った時の話だった。
 晴政さんと話をしながらも食べる手は止まらず、あっという間になくなってしまった。

「A5ランクも美味しいですけど、どうも牛を不健康に追いやっている気がして……まあ、最終的に食べるのに牛の健康を気遣うのも独善的ですが」

「じゃあ、フォアグラとかも食べないんですか?」

「主義主張とか言うほどではないですから、出されれば食べますよ。選べる立場であれば他を選ぶというだけで、味自体は嫌いではないですし」

 ということは、今回は晴政さんが選んだ店とメニューだろうから、脂肪肝のフォアグラは出てこないというわけね。世界三大珍味コンプリートをちょっと期待したけど、桜雅財閥の御曹司からすればおつまみ珍味ぐらいでわざわざ食べようというものでもないのかも。
 晴政さんと話していると、緊張がほぐれていくのがわかった。
 晴政さんもいつの間にか『私』と言っていたのが『僕』に変わっていて、幼い感じが愛しかった。
 目を細めて春政さんを見る。
 目が合って、微笑みかけられる。
 付け合わせを食べるふりをして、私は目をそらした。
 耳が、熱かった。