「せっかくの休息日にお呼びたてした挙句、遅れてしまい大変申し訳ありませんでした」
「いえっ、お気になさらないでください。迎えを寄越してくださいましたし、私は気にしてないです」
改めて頭を下げる桜雅さんに、手と首を振って応える。
からかわれていただけじゃないかって不安になってた時間は悲しかったけど、ちゃんと桜雅さんはこうして私の目の前に座ってくれている。この事実があれば、不安なんてこの時間を喜ぶためのスパイスでしかなかった。
初めて出会った時のウキウキテンションと違って、今日はなんだかとっても感傷的な気分。
「桜雅さんの方こそ、私のために時間を作ってくださってありがとうございます」
ボウタイなんてしていると、本当に王子様かなにかみたいに見えてくる。
地位ある人みたいだし、きっと土日とかないような仕事をしているのかもしれない。そんな人が、私の小さな下心ある親切を時間を割いて返してくれてる。なんて贅沢なことだろう。
「是非、晴政とお呼びください」
頭を上げた桜雅さん―ー晴政さんがはにかみながら言う。
「晴政―ーさん……」
まだ何も口にしていないのに、甘い味が口に広がるようだった。
「桜雅姓の者ばかりなので、仕事でも下の名前を呼ばれることが多いのですが……一ノ瀬さんに呼ばれると、また格別ですね」
お酒も入っていないのに、体が熱くなる。
桜雅さんは車だし、私も一人飲むのも気が引けるから遠慮していた。
気持ちとしては、アルコールでも入れて緊張をほぐしたい気もするけど、普段からそこまで飲むわけじゃないから醜態をさらしそうで怖い。
「私も、百華さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「はっ、はい……!」
声が上ずってしまう。
晴政さんの甘い声で名前を呼ばれて、耳まで砂糖漬けになりそうだった。
間接照明の落ち着いた明かりの中でよかった。少しでも、この動揺を悟られたくなかった。
人並みに彼氏がいたことだってあった。生娘なんかじゃない。それでも、この人の前だと指一つ動かす動作さえどう見られているか気になってしまって、動きが硬くなる。
油の切れたブリキのおもちゃの気分。
「あの……桜雅姓の方が多いって、やっぱり晴政さんは桜雅銀行の方なんですか?」
はっきりと確認するのも下世話な気がしたけど、やっぱり確認しないとこのモヤモヤが晴れないと思って聞いてしまった。
「いえっ、お気になさらないでください。迎えを寄越してくださいましたし、私は気にしてないです」
改めて頭を下げる桜雅さんに、手と首を振って応える。
からかわれていただけじゃないかって不安になってた時間は悲しかったけど、ちゃんと桜雅さんはこうして私の目の前に座ってくれている。この事実があれば、不安なんてこの時間を喜ぶためのスパイスでしかなかった。
初めて出会った時のウキウキテンションと違って、今日はなんだかとっても感傷的な気分。
「桜雅さんの方こそ、私のために時間を作ってくださってありがとうございます」
ボウタイなんてしていると、本当に王子様かなにかみたいに見えてくる。
地位ある人みたいだし、きっと土日とかないような仕事をしているのかもしれない。そんな人が、私の小さな下心ある親切を時間を割いて返してくれてる。なんて贅沢なことだろう。
「是非、晴政とお呼びください」
頭を上げた桜雅さん―ー晴政さんがはにかみながら言う。
「晴政―ーさん……」
まだ何も口にしていないのに、甘い味が口に広がるようだった。
「桜雅姓の者ばかりなので、仕事でも下の名前を呼ばれることが多いのですが……一ノ瀬さんに呼ばれると、また格別ですね」
お酒も入っていないのに、体が熱くなる。
桜雅さんは車だし、私も一人飲むのも気が引けるから遠慮していた。
気持ちとしては、アルコールでも入れて緊張をほぐしたい気もするけど、普段からそこまで飲むわけじゃないから醜態をさらしそうで怖い。
「私も、百華さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「はっ、はい……!」
声が上ずってしまう。
晴政さんの甘い声で名前を呼ばれて、耳まで砂糖漬けになりそうだった。
間接照明の落ち着いた明かりの中でよかった。少しでも、この動揺を悟られたくなかった。
人並みに彼氏がいたことだってあった。生娘なんかじゃない。それでも、この人の前だと指一つ動かす動作さえどう見られているか気になってしまって、動きが硬くなる。
油の切れたブリキのおもちゃの気分。
「あの……桜雅姓の方が多いって、やっぱり晴政さんは桜雅銀行の方なんですか?」
はっきりと確認するのも下世話な気がしたけど、やっぱり確認しないとこのモヤモヤが晴れないと思って聞いてしまった。