「できるだろ? ほら、今すぐ行け!」




怒鳴られた由紀子がビクッと体を撥ねさせると同時に立ち上がった。

その顔は真っ青で、倒れていないのが不思議なくらいだ。

由紀子はぼろぼろと涙を流して「もう、嫌」と呟く。

見ていられなくて近づこうとしたそのとき、由紀子が弾かれたように駆け出したのだ。

チームから逃げるように、園から逃げるように全力で走る。

残りの3人はすぐに追いかけるかと思っていたけれど、ベンチに座り直しておしゃべりを開始しはじめたのだ。

その光景に私は足を止めた。

どうして追いかけないんだろう?

さっきまでの様子を見ていると、由紀子を無理やり労働へつかせることくらいやりそうなのに。

そう思っていたときだった。

走って逃げていったはずのに由紀子がこちらへ戻ってくるのだ。




「よぉ、戻ってきたかよ。じゃあ行こうぜ」




由紀子は相変わらず涙を流して「嫌、もう嫌」と繰り返している。

しかし抵抗もなく男の子に腕を取られて歩き出したのだ。




「どうして逃げなかったの!?」




思わず大きな声を出していた。

だって、今の様子だと逃げ切ることができた。

園から出ることが難しくても、チームから逃げてひとりになることはできたはずだ。

それなのに由紀子は自分から戻ってきた。




「途中でクマに見つかった?」