「赤木先輩?」



女性へ向けてそう呟いたのは尋だった。

名前を呼ばれた女性がこちらへ視線を向けて怪訝そうな表情になる。




「あんたたち、たしか2年生の……」




そこまで言われて私も思い出した。

女性の方は赤木繭乃(アカギ マユノ)先輩で、男の方は楠智道(クスノキ トモミチ)先輩だ。

ふたりとも美男美女カップルで、校内では有名な存在だった。




「先輩たち、どうしてここに?」




尋がそう聞くと、ふたりは互いに目を身交わせた後左右に首を振った。




「わからないんだ。目が覚めたらここにいた。君たちは?」




智道先輩の言葉に尋が自分たちも同じであることを説明した。




「君は牧田くんだよね? そっちの子は?」




智道先輩の視線が私へ向いている。

尋は部活動や委員会で活発に活動しているから、顔と名前くらいは知っていたんだろう。




「橘恵利です」




小さく頭を下げて自己紹介を済ませる。

コーヒーカップの中は明るいけれど外は暗い。

夜空に浮かんでいる星がまたたいている時間帯だ。