クレープ屋のお兄さんにそんな質問をしているのが聞こえてくる。

茶髪で遊んでいそうに見えるお兄さんは眉を下げてすまなさそうな表情に変わった。




「悪い。俺は園に雇われてるただのバイトなんだ。なんか普通の遊園地と違うなって思ってたけど、ここでクレープを売ることしか聞いてないんだ」



「そうなんですか……」




本当に申し訳なさそうにしているお兄さんが嘘をついているようにも見えず、尋はクレープを持って屋台から出てきた。

新鮮なバナナとクリームとチョコの香りが食欲を刺激する。




「わぁ! おいしそう!」




尋へのお礼もなく繭乃がクレープに飛びついた。




「ありがとう尋。大丈夫だった?」



「とくになにもなかったよ。本当にクレープ屋の手伝いをしただけだった」



「そうなんだ……」




なにも実害がなかったことはいいことだけれど、ただアルバイトをさせるためにここまで大きな誘拐をするとは思えない。

私は納得のいかない気持ちでクレープを受け取ったのだった。