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昨日の仕事中、私は1度メスを取り落してしまった。

メスは地面を滑ってベルトコンベアーの下に入り込む。

そのとき、気がついたんだ。

部屋の中は監視されていたとしても、ベルトコンベアーの下は視角になっているんじゃないかって。

だけど妙な動きをすればすぐにバレてしまう。

このことを智道に慎重に伝えないといけない。

私は大橋くんの体をメスで切り裂きながら何度も智道に視線で合図を送った。

智道は最初解体作業だけに意識が行って気がついてくれなかったけれど、次第に私の視線が上下することに気がついてくれたんだ。

ベルトコンベアーの下が視角になっている。

そのこと告げるために、私は智道に大橋くんの傷口を広げて置くように伝えた。

傷口の中にふたりで手を差し入れて、処置しているふりをして何度も智道の指先を握った。

それは高校1年生の頃に習うモールス信号だった。

あの授業がまさかこんな場面で役立つとは思っていなかった。

同じ高校にいる智道だって、当然モースル信号を知っていた。

こんなやり方で言葉が伝わるかどうか不安だったけれど、うまく行った。

智道は大橋くんの血を吸い取るために大量のガーゼを手にとり、その中にメスを隠した。

メスをジャージのポケットに滑り込ませたあと、智道はもうひとつ大切なものを盗み出したいた……。