「危ない!」




女の子が真っ青な顔で叫んだ。

カラスは大橋くんの左手もつつく。

皮膚が弱いそこをつつかれた大橋くんは地上まで届く声で唸り声をあげた。




「もううから、早く降りてきて!」




女の子の声に大橋くんが悔しそうな顔を向ける。

早く降りてこないと、10メートルの高さから落下することになってしまう。

地面にはマットもなにもないから、その衝撃は計り知れない。




「でも、もう少しなのに……」




大橋くんは再びフェンスへ視線を向けた。

あとは乗り越えて、降りるだけ。

ここまで来たのに引き返さないといけないから、躊躇しているのがわかる。

けれど、その間にもカラスたちは大橋くんを攻撃し続けているのだ。

遠くからだからわかりにくいけれど、カラスは必要に手や足を狙っているようにも見える。

それを見ていて自然と背中に汗が流れていく。

カラスは明らかに人間を警戒していない。

そして人間の弱い部分を知っているようにも見える。

そう、まるで飼いならされているようなのだ。