「あっ!」




と女の子が声を上げて口に手をやる。

大橋くんはどうにか右足をフェンスに掛け直して「大丈夫だ!」と合図を出す。

私も三角バッヂのついたチームの子たちと同じように胸をなでおろす。

今5メートルほどの場所にいるけれど、そこから落ちたら大怪我をしてしまうだろう。

下はコンクリートだし、打ちどころが悪ければ死んでしまう可能性だってあるかもしれない。

そう考えると今更ながら心臓がドクドクと早鐘を打ち始めた。

大橋くんは命をかけて脱出しようとしているんだ。

自然と拳を握りしめてじっとりと汗が滲んてきていた。




「ねぇ、このジュエリー店、後で行ってみてもいい?」




そんな声が聞こえて思わず視線を向ける。

そこにはまだパンフレットを見つめている繭乃の姿があった。




「今それどころじゃないだろ」




智道にたしなめられているけれど、繭乃はパンフレットから視線をあげようともしない。

大橋くんが命がけでフェンスをよじ登ってくれているにも気がついていないかもしれない。

そんな繭乃にあきれて、私はまたフェンスへ視線を戻した。

大橋くんの手はあともう少しで頂上に届きそうだ。

上まで行ければあとは下るだけ。

そうすれば助けを呼びにいくことだってできる!

私はゴクリと唾を飲んで大橋くんを見守る。

他のメンバーもみんな無言で大橋くんの無事を祈っていた。

そしてついに大橋くんの手がフェンスの頂上へかかる。