「体が腐る前にやらないと」




今はまだ冷えているから、メスで切り裂いても出血は少なそうだ。

だけど完全に遺体が解凍されればさらに困難な状況になる。

私は振り向いて棚からメスを選んで握りしめた。

大橋くんに向き直る前にマスクと手袋を装着する。




「本当にやる気なのか?」




振り向いた私に智道が聞く。

やるかやらないかじゃない。

やるしかないんだ。

じゃないと私達は永遠にここから出られない。




「念の為にマスクと手袋をつけて。病気を持ってたら感染するかもしれないから」




そう言うと智道は慌ててマスクと手袋を身に着けた。

問題はここからだ。

私はメスを右手に持ったまま固まってしまった。

医療系のドラマや映画は何度も見たことがある。

けれど私は医者じゃない。

人の体の作りなんて、子供の頃理科の授業で習っったくらいのものだ。

動きを止めていると智道が手を伸ばして大橋くんが身につけているジャージの前を開けはじめた。

ジッパーを下ろすと白いシャツが顕になる。