「恵利、大丈夫か?」




その声にようやく視線を向けると心配そうな表情を浮かべている牧田尋(マキタ ヒロ)と視線がぶつかった。

尋と私は同じ坂山高校の2年生だ。

2年生に上がってすぐに交際を始めた。




「尋……?」




そう尋ねる自分の声が枯れていて、何度も咳をする。




「よかった。目を覚まさなかったらどうしようかと思ったんだ」




尋はそう言うと私の体をきつく抱きしめた。

尋のぬくもりに安心する反面、体のあちこちが痛むことに気がついた。

顔をしかめて尋から身を離す。




「体が痛い」



「無理な体勢で寝てたからな」




無理な体勢ってどうして……。

そう聞こうとして、私はようやく自分が遊園地にあるコーヒーカップの中にいることに気がついた。

周りが騒がしく、きらびやかで気がつくのが遅れてしまった。




「コーヒーカップ? なんで?」




私は今日尋とふたりで遊園地へ来ていただろうか?

思い出そうとしてみても、そんな記憶はなかった。

記憶にあるのは平日に学校へ行き、授業を終えて普通に帰宅したことだけだ。

明日も学校があるから、遊園地で遊んでいる時間なんてなかったはずだ。