これから会える推し、そしてライブに胸を弾ませていた雪は気付くことはなかった。新が恐ろしさを感じてしまうほどの無表情でこちらを見ていたことにーーー。

午後九時、楽しかったライブが終わり雪はホテルへと戻った。まだ心の中では推しの見せてくれた笑顔が煌めき、耳には推しの歌が残っている。

「君にただ会いたかった」

推しの歌を口ずさみながら廊下を歩き、部屋へと入る。メイクを落としてお風呂へ入ると、一気に長旅とライブではしゃいだ疲れが押し寄せてきた。

パジャマに着替えた後、雪は大きなあくびを一つし、ベッドに横になった瞬間に寝息を立ててしまっていた。



「んんっ……」

遠くで聞こえる小鳥の囀り、カーテンの隙間から差し込む光に雪の意識はゆっくりと覚醒していく。しかし、雪が重い瞼を開けた時、最初に感じたのは驚きだった。

「えっ、ここどこ!?」

目を開けるまでは、二度寝してしまうかと呑気に考えていたものの、それどころではなくなっていた。ベッドから体を起こし、戸惑いながら周りを見る。