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 いくつかの取引先を巡って、そろそろ営業所に戻って事務処理をしようと私は足を速めた。

 ……あ。 そういえばこの辺、シトミズの会社の近くだ。 長嶺さんとよく二人で相談しながら歩い、た……


「!」


 行く先に、麗華さんがいた。
 もう帰るところだろうか、派手な色のバッグやコートを身につけている。
 気付かれる前に逃げよう、と思った瞬間に気付かれて、目があってしまった。


「あ……こんにちは。シトミズさん、今度伺おうと思ってたんです」


 曲がりなりにも取引先の令嬢。 一応挨拶はする。


「……どーも」


 麗華さんはふいっと私から視線を逸らしてぶっきらぼうに言った。
 この人、ほんといい性格してるな。

 これ以上なにか話しても互いにストレスが溜まるだけだ。
 私は会釈して帰ろうと軽く頭を下げた。

「では、失礼しま 「長嶺さん異動するってほんとですか」


 麗華さんは不機嫌を隠さないまま私に聞いた。
 それでも彼女の目には切なさが潜んでいて、長嶺さんにまだ気持ちがあることが読みとれた。


「……みたいですね」

「みたいって……他人事ですか」
 
「他人なので」

「は? 彼女でしょ? そんな言い方、」

「彼女じゃありませんから」

「え……?」

「もう、彼女じゃありません」


 なるべく平常心を保って淡々と言ってみせた私に、麗華さんが愕然とする。